相続人全員で相続放棄したのに、放棄前の貯金の引き出しが相続財産管理人の弁護士に発覚してしまいました。
遺言書には、公正証書遺言と自筆証書遺言(秘密証書遺言)がありますが、自筆証書遺言(秘密証書遺言)を保管していたり、見つけた人は、遺言者が亡くなったら、どんな場合でも家庭裁判所に「検認申立」をすることが、法律で定められています。遺言書に封がしてあれば、検認前の開封は禁止です※。「検認」は、相続人に遺言書の存在と内容を知らせて、偽造や書き替えを防止するのが目的の手続きで、自筆証書遺言の場合、「検認」を受けないと、預貯金の解約や不動産の相続登記ができません。
「検認」を受けるまでに、申立から約1ヶ月かかりますし、法定相続人全員の戸籍謄本と住民票又は現に住んでいる住所を揃える必要があります。また、遺言書に遺言執行者を指名していなければ、遺言執行者を決める必要があります。もし遺言書が法的に無効なものなら、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりませんし、有効でも、相続財産の調査は必要です。相続税の申告期限である、10ヶ月以内に、めんどうな手続きを、粛々と片付けていくことに迫られます。
※民法1004。うっかり開けると5万円以下の過料処分を課せられる場合があるほか、遺言書に押印はなく封筒の封緘部分に押印がある場合には開封することで遺言の効力が認められなくなります。
「遺言書検認申立」をするには、亡くなった方が生まれてから死ぬまでの戸籍を全て取り、そこから辿って、法定相続人全員の戸籍を集めるという大変な準備が必要です。遠隔地だとさらに時間も費用もかかり、住所を調べるのだけでも一苦労です。
弁護士は、職務上の特権があって本籍を調べやすく、本籍から相続人を辿って、効率良く戸籍謄本を集めることができます。また、裁判所への申立書作成も依頼できます。
「検認」の目的は、遺言書の内容を偽造・変造されないために、証拠を残すのが目的です。裁判所が、遺言書の有効・無効を判定するわけではないので、「検認」後に遺言書の法的有効性を争うこともあり得ます。自筆証書遺言の場合、決められた様式を欠いていて明らかに無効な場合以外は、家庭裁判所での遺言無効確認の調停~裁判での判断になります。
例えば、内容の記載があいまいな場合や、書いた時点での認知症や判断能力の低下、他人による偽造や修正、脅迫や詐欺による無理強いなどがなかったか、などの判断は困難なので、弁護士にご相談ください。
自筆証書遺言は、公正証書遺言より無効の判決が下りる例が多く、公正証書遺言でも、作成時に遺言能力がなかったと証明されると、無効になります。
「検認」を受けた遺言書に、遺言執行者が指定されていない場合、家庭裁判所に「遺言執行者選任申立」をして、遺言執行者を決めることができます。必須なのは、遺言書に「子の認知」や「相続人の廃除・廃除取り消し」の記述があったときですが、遺言執行者になると、いわば裁判所のお墨付きをもらって、相続手続きを単独で進める権限を得ることになります。必要書類の収集や署名・押印手続きを、相続人代表として進められるので、遺言の条項に従って預貯金の解約や移転登記などもできます。
遺言執行者として、しなければならない事は多く、責任重大ですが、手続きの手間と時間が大幅に短縮できるだけでなく、遺言執行者選任後は他の相続人が勝手に相続財産を処分したり、相続手続きを妨害したりすることも阻止でき、後々のトラブル回避につながるので、ご自身を執行者として申し立て及び複雑な手続きについて弁護士に依頼することをご検討ください。その場合、法律知識が必要ですので、面倒な作業部分も含めて、相続問題に詳しい弁護士にサポートを依頼することをお勧めします。
≪ご注意ください≫
弁護士に遺言執行者を依頼すると、弁護士は相続人全員の代理人という立場になり、あなただけの利益を代弁することはできなくなります。