遺言書
遺言書は書いてあるが、時間が経過して事情が変わったので、トラブル回避のために新しく書き換えたい。
- 相談者
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年代:50歳代
Hさんは3人兄弟で、オーナー社長の父は、銀行の仲介で既に遺言書を作っていました。
それには、相続財産の何をどれだけ誰に相続させるといった具体的記載がされており、加えて、認知済みの婚外子の相続分も記載されていました。
しかし、遺言書作成から約10年が経過して財産の内容が大きく変化したのと、会社の継承のこともあるので、遺言書を作り直したいと、当事務所に相談に来られました。
遺言書を作成してから約10年の間に、お父様自身の財産の多くは整理・処分されて、かなり減ってしまっていました。もし今、この遺言書を残してお父様が亡くなれば、遺言書に書いてある財産はどこへ行ったのかと、きょうだい同士が疑心暗鬼になる可能性が大きいので、お父様の財産目録を作成し直すところから始めたいとのことでした。
また、会社の事業継承の際もめないように、現在全く往き来のないHさんの婚外子の相続の件は、新しい遺言書に書かないように希望されました。
この件は、ご依頼者のお父様の遺言書の作成が目的ですから、弁護士が被相続人であるお父様にお目に掛かり、直接ご希望をうかがいました。同時に、認知力などの状態を確認し、万一、相続遺言無効確認訴訟を起こされた場合に備えました。
今ある遺言書も参考に、現在のお父様の相続財産を調査してリストアップし、借金や保証債務などのマイナスの財産がないかも確認しました。
相続財産のリストなどの資料をお父様にお示しし、今ある遺言書の修正部分や追加・削除部分を確認しました。その後、弁護士が公証人と事前打ち合わせをして細部の調整をし、法的に問題の無い原案を仕上げて、原案を確認いただきました。
お父様に、証人2人と共に最寄りの公証役場にお出掛けいただき、公正証書遺言を作成しました。今回、証人は弁護士と当事務所職員が務めました(Hさんを含む推定相続人やその御家族などは証人になれません)。
当事務所では、会社承継のご相談をいただいた場合、後継予定者が自社株を確実に相続できるように、株式を後継者に信託する、「自社株信託」をお勧めしています。オーナーの生存中に契約しても、高額になりやすい贈与税が課税されないように設定でき、買取ではないので資金を用意する必要もありません。
しかし今回の場合、3人のきょうだいのどなたが後継者になるかは未定だった為、とりあえず新しい遺言書を作っておき、株式の信託契約の検討は後日ということになりました。
相続人からの遺言書作成依頼には、被相続人の意思確認が必要
親が、きょうだいの誰かの言いなりになって自分に不利な遺言書を書いたのではないか?との疑いが、相続争いに発展するのはよくあることです。今回の場合、そのような疑いを持たれる要素が多いので、遺言書作成にあたって、弁護士本人の意思や健康状態を確認するのは必須でした。
遺留分侵害額請求権の除斥期間は10年
今回作り直した遺言書では、婚外子の方の相続の件は削除しました。公正証書遺言は検認の必要が無いので、被相続人の死亡を連絡する必要は無く、現在音信不通ならば、敢えて言及することはないだろうというのが、お父様の意思であり、御家族の一致した意見でした。遺留分侵害額請求権の除斥期間は死亡時から10年とされているので、お父様が亡くなって10年が経過すれば、婚外子の方は遺留分を請求する権利が無くなり、後々のトラブル発生の心配も少ないと思われました。