遺言内容に不満を持つ相続人が、「遺言書は認知症の親がきょうだいの誰かの言いなりになって書かされたものではないか?」「きょうだいが財産を使い込んだり隠してはいないか?」と疑い、相続ならぬ争続に発展する例は珍しくありません。
しかし、親が元気なうちに家族信託の契約をして、財産の管理運営を委託しておけば、親が認知症になったらすぐに対応でき、相続発生後の相続人同士の疑心暗鬼も防げます。
信託法という法律を利用した比較的新しい制度で、子どもなどの近親者と信託契約をし、財産の管理・運営を託します。
仕組としては、委託者が、財産の管理運用を託す人=受託者(主に子どもなどの近親者)と、財産から利益を受け取る受益者を定めて契約をします。契約が成立した時から効果が生じ、財産を、いつ、誰に、何の目的であげるか指定できるので、色々な活用方法を設定できます。
家族信託は、認知症などを患う前にスタートするので、認知症が原因の相続や事業継承のトラブルや遅延を予防でき、遺言や成年後見制度ではカバーできない部分を補える、柔軟性のある制度です。高齢化が進む今、新しい相続・事業承継対策として注目されています。
遺言 | 成年後見制度 | 家族信託 | |
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開始時期 | 死亡時 | 申請後約1年 | 契約締結後すぐ |
裁判所介入 | 一部あり | あり | なし |
途中変更 | 可 | 不可 | 可 |
子どもや孫の教育資金や結婚費用のための暦年贈与は、通常、認知症になればできなくなりますが、予め信託契約書にその事を書いておけば、継続が可能です。
財産の現金の一部を信託財産とし、受益者を被相続人(夫)、受託者を子ども、第二次受益者を妻に定めておけば、夫の死により受益権が妻に移り、遺産分割協議を経なくても妻の相続分を確保でき、受託者が妻の生活費の管理をできます。
共有相続人の間で意見が対立し、管理・補修・運用ができなくなったり、売却せざるを得なくなるといったトラブルを避けるために、家族信託を利用する方法があります。
例えば、被相続人である父が委託者兼受益者になり、相続人の1人の子Aを受託者兼第二次受益者として不動産の所有名義と管理処分権限を持たせ、残りの相続人を第二次受益者にする信託契約を結びます。
父の生存中は家賃の受益者は父のみ。父の死後は、相続により子A・B・Cが受益者となりますが、所有名義と管理処分権限は子Aにあるため、前述の様なトラブルを回避できます。
遺言の代わりに信託契約を結べば、二次相続以降の相続人を指定することも可能です。
委託者と受益者を親に、受託者をきょうだいなどにし、親の死後、障がい者の子どもを被扶養者として受託者が財産管理を行います(福祉信託)。
家族信託制度を利用するにあたっては、制度の理解 ⇒ 財産調査 ⇒ プランニング⇒ 契約書作成 ⇒ アフターケア の流れになります。法務と税務が深く関わる反面、裁判所の介入のない新しい制度ですので、判断や手続のミスにより、運用開始後の思わぬトラブルが起こり、取り返しのつかない事態を招くことにもなりかねません。相続問題に詳しい弁護士に相談・依頼することで、より良い利用方法を選択し、起こりうるトラブルや、発生する相続税への事前対策を講じることができます。