生前贈与
相続税法第49条に基づく開示請求で、問題が解決した事例
- 相談者
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年代:60歳代
地方から大阪に来て働いていたYさんですが、故郷の父が亡くなり、実家の農家を、同居している長男に継がせるという遺言書が残されていました。兄の話では残された預貯金は少ししかないということでした。Yさんとしては、兄に農家を継いでもらうことに異論はありませんでしたが、昔からきょうだいを分け隔てなく扱ってくれていた父が、自分にはほぼ何も残さなかったことに納得できず、当事務所に相談に来られました。
Yさんは、お父様が認知症を患っていて、お兄さんの言うままの遺言書を書かされたのではないか?と疑っていました。そこで、本当はどうなのか調べてほしいとのご要望でした。
お父様の遺言に問題がなかったとしても、自分にも遺産をもらう権利はあるので、不動産以外の相続財産が実際はいくらあったのか調べられないか、そして、正当な遺留分を請求したい、というのが2つめのご相談でした。Yさんとしては、お兄さんが家と土地を相続して農業を継ぐことに異論はありませんが、お父様から多額の生前贈与を受けたり、預貯金を勝手に引き出して隠しているのではないか、と疑っていました。
遺言書作成当時のお父様の状態を知るために、主治医にカルテのコピーを依頼し、介護事業者に介護記録のコピーを依頼したほか、介護保険の主治医意見書や調査員の調査票を取寄せ、弁護士が内容を検討しました。その結果、軽度の認知症は認められましたが、遺言書が無効になる程ではなかったことがわかり、遺言無効確認訴訟の維持は難しいとの結論になり、遺言は有効であることを前提に話を進めることになりました。
お父様の口座があったであろう金融機関にしらみつぶしに照会書を送付し、口座が存する旨の回答があった金融機関には、さらに残高証明と取引明細書の発行を請求して調べましたが、大口の出金は見つかりませんでした。
お兄さんが生前贈与を受けたかどうか調べるもうひとつの方法として、相続税法第49条に基づき、税務署に贈与税の申告内容の開示請求をしました。この請求への回答で、請求者以外の相続人の、過去の贈与税の申告状況(相続開始前3年以内の贈与の有無と相続時精算課税制度に基づく贈与税の申告の有無、金額)がわかるので、生前贈与があれば金額もわかります。
当事務所が書類を整えてYさんの故郷の税務署に開示請求を行い、回答を送ってもらった結果、相続時精算課税制度に基づく贈与税の申告があったことがわかりました。
弁護士が、税務署からの開示請求の回答を示して、お兄さんを説得した結果、生前贈与を受けたことを認められたので、Yさんの遺留分として妥当な額を算出して請求し、和解することができました。
“49条の規定に基づく開示請求”の活用
今回のように、他の相続人への生前贈与の状況がわからない場合は、税務署に対して贈与税の申告内容の開示請求をして、調べることが可能です。お兄さんは生前贈与の事実を認めたくなかったようでしたが、間に弁護士が入って、双方が納得できる金額の遺留分を提示したので、しぶしぶながら支払いを了解していただきました。
(ただし、お孫さんへの生前贈与は、お孫さんは相続人ではないため遺留分の計算対象にはなりません。)