おしどり贈与
全財産を私に遺すと書かれているけれど甥たちから遺留分請求されたらどうしよう。
- 相談者
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年代:60歳代
父親が亡くなって相続が発生したMさん一家は、母(すでに死亡)、弟(死亡)という家族構成で、第一順位となる相続人はMさんと弟の子供(甥)でした。Mさんは、甥との交流はなく、長期間にわたり絶縁状態が続いていました。父親は生前から、家に寄りつかない孫たちに愛想をつかしていて、財産の全てをMさんに相続させると記した公正証書遺言書を作成していました。Mさんも父の遺志を尊重し、甥たちを抜きにして相続したいと考えて相談に来られました。
Mさんが甥に知られずに相続するには、ひとつ問題がありました。相続財産である父の住居と土地の一部が、先に亡くなった母に「おしどり贈与」されており、建物と土地の一部母は名義、残りは父名義となっていました。
もし、住居不動産をMさんが取得しようとすると、相続人である甥の承認を得る必要があり、そうすると甥たちが遺産相続や公正証書遺言について知ることになります。さらには、遺留分請求を起こされて裁判へと発展し、争いが起きる可能性もありました。
私たちは、遺言書に基づいてMさんが単独相続する相続手続きを行なうに当たり、2段階に分けて手続きすることを提案しました。現段階では相続税だけを申告して不動産の名義変更には手をつけないでおき、遺留分請求の期限である10年を過ぎてから手続きを行なおうというわけです。
遺留分請求の時効は相続や遺言を知ってから1年又は相続開始から10年のいずれか短い方です。ずっと連絡の途絶えたままの甥には、今後も消息が伝わる可能性は低いと予測しての提案でした。10年間待って、遺留分の請求を受けないのであればと、Mさんもこれを承諾。そこで、相続税の申告だけを済ませ、10年後に再度、相続手続きを行なうということで決着を図りました。
「おしどり贈与」は損得をよく考えて
「おしどり贈与」は結婚後20年以上を経た夫婦間において、自分たちの住んでいる住居を優遇税制(2,000万円まで非課税)で贈与できるという制度です。その名の通り、仲のよい夫婦のために、相続時の相手への負担を軽くしようという狙いから生まれた税制度です。
Mさんの父親もこの制度を利用していました。妻のほうが自分より長生きするだろうと考えての生前贈与でしたが、現実には妻が先に亡くなってしまいました。人の寿命は予測不可能です。贈与したつもりが相手の財産を相続することになり、本来なら不要な相続税を払わされるという不測の事態も起きかねません。
配偶者の相続税には1億6千万円まで非課税という優遇措置があり、80%も減額評価してもらえる小規模宅地等の特例もあることを考えると、おしどり贈与の必然性についてはよく考えてから利用したほうがいいといえるでしょう。また、家族信託契約による終の棲家の確保、使用貸借契約の設定などの方法もありますので、メリット・デメリットを検討する必要があります。