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自己破産で自動車を処分せずに手元に残す方法


個人破産

2024 . 04.2

この記事でわかること

  •  自己破産における車の取扱い
  •  自己破産で車を残す方法
  •  自己破産以外の借金整理で車を残す方法
執筆者【 弁護士・税理士 】
たちばな総合法律事務所  代表
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 橘髙 和芳

 大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
 近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995


京都大学法学部在学中に司法試験現役合格。弁護士登録後、国税不服審判所(国税審判官 平成24年~同27年)を経て、現職。担当する企業法務案件が「金融・商事判例」など専門誌に掲載された実績。破産管財人業務経験があり、法人破産、個人破産の相談や申立の実績多数。


たちばな総合法律事務所
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也

 大阪弁護士会所属/登録番号:38530
 近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169

東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事
。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。

1.自己破産による自動車はどうなる?

自己破産手続きでは、原則として債務者の財産を処分し、お金に換えて、債権者の配当をおこないます。

参照記事「自己破産するとどうなる?失る権利や財産、家族への影響などを全解説」
自己破産手続きで処分が必要となる所有財産の範囲と、家族への影響。

所有自動車は処分対象となります。

ただ、特定のケースでは、所有自動車を手元に残すことができます。
自動車ローンで購入した場合、① 銀行の自動車ローン、② 自動車メーカー系列の販売店(ディーラー)経由で提携する信販会社のローンで対応が異なります。
それぞれの内容について解説します。

2.ディーラー提携ローン契約の場合は返却

自動車ローンを組んで車を購入している場合、ローンを完済するまで所有権はローン会社またはディーラーに所有権があります。
これを法律上「所有権留保特約(しょゆうけんりゅうほとくやく)」と言います。

第三者に普通自動車(軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車以外の自動車)の所有権を主張するためには、自動車登録ファイルへの登録が必要です。
つまり、車検証の所有者欄にローン会社やディーラー名が記載されているかどうかを確認することになります。

自動車ローンが残っていて、車検証の所有者欄にローン会社やディーラー名が記載されている場合には同社に自動車は引きあげられます。
(なお、債権者であるローン会社やディーラーは引き上げた自動車を売却処分し、残る支払い額に充当します。充当後、債務が残る場合には破産裁判所に債権届出をおこないます。反対に、剰余金が出た場合には、破産管財人に引き渡されるなどします同金員を受け取ることができます。)

2-1.銀行の自動車ローン契約は対応が分かれる

銀行の自動車ローンの場合、所有権留保特約がないことが多く、車検証の所有者欄は債務者である本人が記載されていることがあり、自動車が引き上げられないことがよくあります。
この場合、契約書(約款)の内容を確認する必要があります。

2-2.自動車ローンで購入した軽自動車の場合

軽自動車の場合、所有権留保の対抗要件は「引渡し」です。
そのため、契約書に所有権留保が定められている場合、基本的に自動車は引き上げられます。

4.破産しても所有自動車を手元に残せる場合

破産しても自動車を手元に残すことができる2つのケースについて解説します。

4-1.資産価値がない場合

自己破産手続きにおいて、所有自動車がある場合財産目録に記載し、車検証の写しをつけて申立てします。

但し、メーカーが発表している車両本体価格が300万円以下の国産車であり、かつ、初年度登録から7年以上経過している自動車は「無価値(0円)」とみなすことができます。
つまり、自己破産するにあたり換価処分の必要はありません。

また、自動車の資産価値については中古自動車販売会社の査定書、自動車価格月報(レッドブック、中古自動車市場における標準的な価格予測)より、20万円未満の場合は、自由財産として手放す必要はありません。

なお、自動車は、同じ車種でも状態により売価が大きく変わるので、原則は、査定書によります。

4-2.自由財産として取り扱う

破産法上、「現金99万円(破産法34条3項1号、民事執行法131条3号)」「差押え禁止財産」は処分対象とはなりません。

差押え禁止財産とは、主にテレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家財道具を言います。

さらに、債務者の生活再建のために上記以外の財産であっても、一定の範囲の財産を自由財産として拡張することができます。

これを自由財産の拡張と言います。

自動車が20万円以上の価値を有する場合には、裁判所に破産管財人を選任してもらう破産申立てをして、預貯金・保険解約返戻金・自動車などが合計して99万円以下であるとして、自由財産として認めてほしいと申立てをすることになります。

もっとも、破産管財人付の破産の場合には、予納金などが20~25万円が余分にかかるほか、申立手数料も余分にかかるので、弁護士とよく相談する必要があります。

参照記事「自己破産でどれくらい手元に財産・家財道具は残せるの?(自由財産について解説)
破産手続で手元に残せる財産の範囲について解説しています。

 

5.よくある質問

自己破産手続きにおける自動車の処分につき、よくある質問は次の通りです。

5-1.家族名義の自動車は処分対象か

債務者本人以外のご家族の名義の自動車は、自己破産手続きによる財産処分の対象外です。

ただ、自己破産手続きにおいて家計収支表を提出する際に、駐車場の賃料、自動車保険、ガソリン代の支出の記載がある場合、家族名義の自動車であることを証明するために車検証や保険証券などを提出することがあります。

また、自己破産申立ての前に、売却処分をまぬがれるために所有自動車の名義を債務者本人から第三者の名義に変更をしないでください。
不法な財産隠しにあたり、自己破産手続きで返済免除の「免責許可決定」が受けられないばかりか、詐欺破産罪に問われる可能性があります。
詐欺破産罪(破産法265条1項)は「10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金に処し、場合によってはこれを併科」されます。

自己破産申立前であっても、債務超過状態で債権者への支払が困難な状況にも関わらず、自動車を手元に残すためにローン会社のみ支払うような行為も危険です。

特定の債権者のみに支払いをおこなうことは「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と言って、自己破産の免責不許可事由のひとつにあたります。

つまり、自己破産をしても免責許可決定が得られず、借金が残ってしまう可能性があります。

つい軽い気持ちで行動してしまい、取り返しのつかない結果になります。

参照記事「自己破産による家族への影響
自己破産することで本人の家族にどのような影響があるのかについて解説しています。

5-2.家族・親族に買い取ってもらうことは可能か

家族・親族に所有自動車を売却することは可能です。
また、その後、買受人である家族や親族から無償で使用させてもらうこともできます。

なお自己破産手続き直近で車を処分した場合、その売却内容について裁判所へ報告します。

そのため、適正な価格で処分したこと証明する必要があります。
相見積もりで査定書をとり、最高値を上回る金額で購入してもらうなど客観的に適切な売却処分であったことを証明できるようにしておくことが大切です。

また、売却代金も、破産申立費用や予納金に使用したと説明ができるようにする必要があります。

5-3.自己破産後の自動車ローンは可能か

通常、自己破産手続きをおこなうと、その債権者である金融機関、消費者金融、ローン会社、カード会社、信販会社などはそれぞれが所属する個人信用情報機関に「事故情報」として破産の事実を登録します。
いわゆるブラックリストに登録されることになります。

参照記事「信用情報(ブラックリスト)の情報は「削除」できるのか(ローン・クレジットを組むと登録される信用情報機関について解説)
下記の個人信用情報機関や相互に情報交流ネットワークなどについて解説しています。
 ● 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
 ● 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
 ● 株式会社日本信用情報機構(JICC)

 

借り入れの審査申込にあたり、所属する個人信用情報機関や情報交流ネットワークによる所属外の信用情報機関からの与信情報を確認します。
そのため、基本的には事故情報が登録される一定期間は審査に通らないと言えます。

ただ、登録期間経過後も借入れができないこともあります。
クレジットカードの利用履歴などをクレジットヒストリーがないことで、過去に破産があったと疑われる可能性があります。
そのため、個人信用情報機関の登録が消えた後にローン審査が通過するかどうかは、申し込みを行ってみないと分からない、というのが実際のところです。

参照記事「自己破産後からクレジットカードは使用できるのか。いつ新規契約できるのか。
自己破産後にクレジットカードを作成する際の注意点について解説しています。

なお、自己破産手続きが終結したのち、現金一括で自動車を購入することは問題ありません。

5-4.レンタカーは借りることができるか

現金決済の方法による場合には、レンタカーを借りることは可能です。
但し、クレジットカード決済による利用料の支払いの場合、先ほどの信用情報登録の問題があるため利用が難しいと言えます。

5-5.車を残しながら債務整理できる方法はあるか

所有自動車の査定額が高く、自由財産拡張申立てをしても99万円の範囲を超えてしまう場合は処分対象となります。

「5-2.家族・親族に買い取ってもらうことは可能か」の項目で解説した通り、破産申立前に、家族・親族・友人などに適正価格で買い取ってもらい、使用貸借をうけることも一つです。

自己破産以外の債務整理方法は、任意整理と個人再生があります。
まず前提としてどちらの手続きも、定期的にまとまった金額の返済ができる資力が必要です。

「任意整理」は直接債権者と交渉をして、返済計画の見直し(リスケ)などをおこない返済の負担を減らすための手続きです。
任意の交渉であるため、金融機関など債権者が交渉に応じてくれないリスクがあります。
カーローンを組んでいるローン会社や銀行以外の借入先を任意整理し、カーローンは従前どおりに返済をおこなうことで引きあげられないようにします。

関連ページ「任意整理による借金問題解決」
借金問題の解決にあたっての任意整理の概要や、手続きの流れについて解説しています。

法的整理である「個人再生」は、負債5分の1、または財産を現金化した場合の価値以上の返済(清算価値)のいずれか多い方が返済額となります(但し、最低返済額100万円)。

個人再生手続きの場合、家族・親族による援助(または家族・親族による第三者弁済)で自動車ローンを完済できれば、自動車の引上げを回避できます。
ただ、この場合も自動車の査定価格が高いと、保有財産額に上乗せされるため、返済総額が高くなる可能性があります。

関連ページ「個人再生手続きによる借金問題解決」
借金問題の解決にあたっての個人再生の概要や、手続きの流れについて解説しています。

6.まとめ

自己破産申立書には「財産目録」と呼ばれる資産の一覧表を添付します。
財産目録にわざと記載せず資産を隠したり、不当に安い価格で親族に売却処分したりするなどの行為は、詐欺破産罪に問われるばかりか、その売却処分の行為の取り消しを求める裁判を破産管財人から提起される可能性があります。

自己破産手続きは,返済免除を受けられる債務者にとって大きなメリットのある手続きです。

車を維持することと、自己破産手続きで借金免除を受けることの利益を比較して、自分にとってどちらが良いかをよくよく考えましょう。
また、自動車を手放した際のレンタカー利用や親族から借りるなどして対応できるかも検討しておくと良いでしょう。

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