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会社破産(法人破産)をした経営者の個人再生手続きについて解説


個人再生

2025 . 02.26

この記事でわかること

  •  破産した会社の代表者は「個人再生が可能」
  •  個人再生の利用条件
  •  個人再生の手続きの流れ
執筆者【 弁護士・税理士 】
たちばな総合法律事務所  代表
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 橘髙 和芳

 大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
 近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995


京都大学法学部在学中に司法試験現役合格。弁護士登録後、国税不服審判所(国税審判官 平成24年~同27年)を経て、現職。担当する企業法務案件が「金融・商事判例」など専門誌に掲載された実績。破産管財人業務経験があり、法人破産、個人破産の相談や申立の実績多数。


たちばな総合法律事務所
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也

 大阪弁護士会所属/登録番号:38530
 近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169

東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事
。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。

会社破産(法人破産)をした経営者の個人再生手続きについて解説

法人破産の手続きで、経営者個人が連帯保証した債務や私的な借入は整理されません。
経営者個人としても大きな負債を抱えている場合、別途、負債整理のための手続きをとる必要があります。

このような場合、任意整理、自己破産、個人再生の3つの負債整理の方法が考えられます。例えば、自己破産は住宅や車などの資産を失うおそれがあるため、できるだけ資産を守りながら債務を整理したい場合は、個人再生が有効な選択肢となります。

本記事では、個人再生手続きの基本情報、法人破産をした経営者が個人再生を検討するときの注意点や手続きの流れ、メリット・デメリットについて解説します。

1.法人破産による経営者への影響

法人破産による経営者への影響は、主に次のようなものが挙げられます。

1-1.原則、法人と個人は区別される

法人は経営者個人とは別の法的主体であり、会社名義での借入は基本的に経営者個人とは切り離して取り扱われる仕組みになっています(ただし、法人の種類が「合資会社(無限責任社員)」「合名会社」の社員は、法人・個人の区別なく、その返済義務を負います(無限連帯責任)。)。

とはいえ、実際には事業をおこなう中で金融機関や取引先が経営者に連帯保証を求めている場合が多く、その保証部分については法人の破産手続きが終了しても責任が残ります。

こうした保証債務が個人にとって大きな負担となるため、経営者個人が追加で債務整理を行うかどうかを早期に検討する必要があります。

1-2.法人破産における経営者の責任の範囲

会社代表者の責任
法人破産により発生する可能性がある会社代表者の責任の例
<負債に関するもの>
☑ 事業資金の借入れの連帯保証債務(連帯保証人)
☑ 法人の滞納税の納税義務(第二次納税義務者)
☑ 法人の納税猶予・分納のために納税保証書を提出

 

経営者が連帯保証を行っている場合、会社が破産手続きを終えても、その連帯保証債務は個人が引き続き負うことになります。
これは経営者個人が債務の返済義務を直接引き受けているのと同じことです。
そのため、個人での借り入れ以外に、会社の連帯保証債務を含めて負債総額を検討する必要があります。
なお、連帯保証債務については、主債務者である法人が破産した場合には、保証人に対して一括返済を求めることが一般的です。

なお、会社資金と個人資金の区別があいまいな状況であれば、法人破産の過程で経営者が私的に流用した資産や資金繰りの手法が、破産管財人から問題視されるケースもあります。

こうした状況では、個人としての責任追及が厳しくなる場合もあるため、早期に専門家である弁護士へ相談しながら適切な整理方法を見極めることが大切です。

法人破産の際に代表者・社長としてどのような責任と義務が発生するのかについては、次の関連記事で詳しく解説しています。

 

関連記事

「法人破産における代表者・社長の責任と義務の範囲(リンク)」
法人の負債に対する代表者の責任、法人破産手続きにおける破産管財人への手続き協力の義務など、代表者・社長としての責任の範囲について解説しています。

1-3.再起業後の借入れが難しくなる可能性

会社の倒産によって経営者の社会的信用が低下し、次の事業の資金調達が困難になることも考えられます。
経営者個人は破産後に新規事業を立ち上げようとしても、銀行や取引先の審査が厳しくなる可能性があります。

そのため、法人破産後の経営者は、個人に及ぶ債務リスクと将来的な信用面のリスクを総合的に踏まえて行動することが大切です。

2.経営者個人の負債整理方法

法人破産後、経営者個人に債務が残った場合、状況に応じてさまざまな整理方法が考えられます。

くり返しになりますが、経営者個人としての負債整理方法には、任意整理、個人再生、自己破産などが挙げられます。

任意整理は、裁判所を通さずに債権者と直接交渉して利息カットや返済期限の延長などを図る方法です。

自己破産は残された債務を全額免除できる可能性がある一方、職業の資格制限(生命保険の外交員、警備員など)や資産の処分(自宅や一定の現金など)の制約が生じるため、デメリットも大きい手段となります。

これらの中で個人再生は、住宅などの主要な財産を保有したまま大幅に債務を圧縮できるメリットがあります。
大きな負債を抱えつつも安定した収入源が見込める経営者にとっては、自己破産よりも柔軟に再出発を図れる選択肢であると言えるでしょう。

3.経営者の個人再生手続き

個人再生手続きは、自己破産ほどの制約を受けずに債務を減額し生活再建をおこなうことができる負債整理の方法です。

特に「住宅ローンを組んで自宅を購入」している場合、個人再生手続きの中で「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を定めることで、自宅を売却処分せずに負債整理をおこなうことができます。
住宅ローン特則とは、住宅ローンについては従前どおりの契約内容に従い返済をおこなうことを定めるものです。

住宅ローンを除いた債務については、大幅に負債額を圧縮した上で、3年(場合により5年)をかけて分割返済をおこないます。

圧縮後の返済総額については、次の通りです。

 

参照 小規模個人再生による返済総額
※最低弁済額は100万円です。
100万円未満の場合                             →  借金全部
100万円~500万円以下の場合            →  100万円
500万円超~1500万円以下の場合      →  借金の5分の1
1500万円超~3000万円以下の場合    →  300万円
3000万円超~5000万円以下の場合    →  借金の10分の1

 

ただし、自己所有の財産を処分した際の価格(清算価値)が、上記の負債圧縮後の金額よりも高い場合には、清算価値に相当する金額を債権者に対して返済することになります。

なお、法人の代表者連帯保証がある場合で法人が破産、代表者民事再生というときは、民事再生が認可されたとしても、月々の返済額が多額となることがありますのでご留意ください。

3-1.個人再生のメリット・デメリット

個人再生の大きなメリットは、住宅などの資産を手放さずに債務を圧縮できることです。

一定の要件を満たせば債務の総額が大幅に軽減され、比較的少ない負担額で再スタートを切ることが可能になります。また、再生計画通りに返済すれば、残りの債務部分は法的に免除されます。

一方、個人再生にも注意点があります。
手続きをとることで信用情報機関に事故情報として登録されるため、新規の融資やクレジット利用が制限される可能性があります。
事故情報が登録されることで、金融機関からの新たな資金調達が厳しくなる場合もあるため、再生後の事業計画や資金繰りをあらかじめ慎重に検討する必要があります。

 

 

また、官報への掲載も行われるため、一部の情報が公になる点は避けられません。

 

 

しかし、これらのデメリットを踏まえても、生活基盤や事業再建を重視する場合には検討の価値が高い制度です。

3-2.個人再生の種類

個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があります。
結論として、経営者の方が利用するのは基本的に「小規模個人再生」となります。

 

参照 小規模個人再生

特徴

小規模個人再生は、将来的に継続的または反復的な収入が見込める個人債務者を対象とした手続きです。債務総額が5,000万円以下(住宅ローンを除く)の場合に利用可能で、収入の種類を問わず適用できます。

メリット
適用範囲の広さ: 給与所得者だけでなく、自営業者など収入が不安定な債務者も利用可能です。
返済額の柔軟性: 最低弁済額と清算価値のうち高い方を基準とするため、多くの場合、給与所得者等再生よりも返済額が少なくなります。
住宅ローン特例の適用: 住宅資金貸付債権に関する特則が適用され、自宅を手放さずに債務整理が可能です。

デメリット
債権者の同意必要: 債権者の半数以上または債権総額の過半数の同意が必要なため、再生計画が認可されないリスクがあります。
手続きの複雑さ: 給与所得者等再生と比べて、債権者の意見をつのるため手続きが複雑になります

 

参照 給与所得者再生
特徴
給与所得者等再生は、給与またはそれに類する定期的な収入を得ている個人債務者を対象とした手続きです。債務総額が5,000万円以下(住宅ローンを除く)で、収入の変動幅が小さいことが条件となります。

メリット
債権者の同意不要: 再生計画案に対する債権者の同意が不要なため、債権者の反対による手続きの不成立リスクが低いです。
手続きの簡素化: 債権者集会が開かれず、書面による債権者決議も不要なため、手続きが比較的簡素です。
安定性の高さ: 収入の安定性が要件となるため、再生計画の履行可能性が高いと評価されます。

デメリット
返済額の増加: 可処分所得の2年分という基準が加わるため、多くの場合、小規模個人再生よりも返済額が多くなります。
適用範囲の狭さ: 給与や年金など、安定した定期収入がある債務者に限定されます。
収入変動の制限: 各年度の収入金額の変動幅が概ねプラスマイナス20%以内であることが求められます。

 

以上の比較から、小規模個人再生は適用範囲が広く返済額が少なくなる傾向にありますが、手続きが複雑です。
一方、給与所得者等再生は手続きが簡素で債権者の同意が不要ですが、返済額が多くなる傾向にあります。

このように利用者の属性や債務状況に合わせて手続きの種類を選択することができます。どちらの方法を選ぶにしても、弁護士と相談しながら負債総額や収入の安定性を踏まえて判断することが大切です。

3-3.個人再生の利用条件

個人再生を利用するためには、住宅ローンなどを除いた債務総額が5,000万円以下であることなどの要件を満たす必要があります。

 

参照 個人再生の共通の利用条件

1 負債総額が5,000万円以下か[保証債務含む]
住宅ローンの額、別除権(例えば抵当権など)の行使で弁済が受けられる額及び罰金を除き5,000万円以下。
2 返済能力
将来的に継続的または反復的な収入があり、再生計画に基づいた弁済が可能であること。
3 約定どおりの返済ができないこと
破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあること、または事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済(返済)することができないこと。

 

上記以外に、給与所得者再生では、① 過去に破産手続きで免責決定を受けている場合、7年を経過しているか、② 前年・前々年度の年収比較で20%以上の違いがないか、などの利用条件があります。

このように各種要件をクリアしないと申立てが許可されない場合があるため、事前に専門家である弁護士へ相談しておくと安心です。

4.個人再生手続きの流れ(事例:小規模個人再生)

小規模個人再生の一般的な手続きの流れについて説明します。

4-1.弁護士に依頼

まずは弁護士へ相談し、個人再生の利用が可能か、経営者個人の資産状況や負債状況、裁判所に納める予納金や必要書類なども含めて、どのような準備が必要かを確認します。

弁護士は適切な再生手続きの選択や書類作成などをサポートしてくれるため、スムーズな手続き進行のためにも専門家への依頼が大きなポイントとなります。
また、弁護士は依頼を受けた時点で、債権者に対して受任通知(介入通知)を送付します。これにより債権者から債務者に対する請求や取り立ては止まります。

4-2.地方裁判所に申立て

必要書類を準備し、地方裁判所に対して個人再生の申立てを行います。
この時点で準備する書類には、債権者一覧表、収支予定表、財産目録などが挙げられます。

4-3.再生手続開始決定

裁判所は申立て内容を確認し、要件を満たしていると判断すれば再生手続きの開始が決定されます。
この際、債権者から給与差押えなどの強制執行を受けている場合、個人再生の開始決定書の写しと強制執行手続停止上申書を、事件が継続している地方裁判所の部係に提出します。裁判所から強制執行の手続きの中止決定があると、給与の取り立てが一時的に停止されます(無事、個人再生手続きが進み、認可決定まで得られれば給与差押えは停止したままです。)。

なお、東京地方裁判所など一部の裁判所では、個人再生委員が選任されます。
個人再生委員には、主に弁護士が選任され、再生手続きの監督をおこないます。
そのため、裁判所に納める費用が15万円~20万円程度かかることがあり、この点あらかじめ用意しておく必要があります。

この時点以降、債務者は再生計画案の作成に取りかかることになります。
手続きの途中で不備や遅延があると、認可決定が下りない可能性もあるので注意が必要です。

4-4.再生計画案(返済計画)などの提出

再生手続きの開始決定後、再生計画の準備をおこないます。
裁判所は、官報に掲載する手続きや、債権者に向けた通知をおこないます。
通知を受けた債権者から裁判所に提出された債務届の内容について、債務者は異議を述べるかどうかを検討します。

その後、作成する再生計画案では、どれくらいの期間でどの程度の金額を返済するのかを具体的に示します。

小規模個人再生ではこの計画案に対して債権者が同意するかどうかが大きなポイントとなります。反対する債権者が半数を超えると手続きが失敗に終わる可能性があるため、弁護士とよく相談しながら計画内容を詰めていく必要があります。

4-5.再生計画の認可決定

無事、裁判所が再生計画を認可されれば、債務者はその計画通りに返済を行います。
定期的に返済を続け、計画通りに完済できれば、法律上残りの債務は免除されることとなります。

5.まとめ

経営者にとって個人再生手続きは、負債整理の有力な選択肢の一つです。
条件や手続きを正しく理解し、専門家の協力を得ながら進めることが重要です。

法人破産と個人の債務整理は原則として別の手続きですが、連帯保証がある場合などは個人にも大きな責任が及びます。
安定した収入が見込め、住宅などの資産を残したいのであれば、個人再生は有力な選択肢となるでしょう。
ただし、債務総額や返済可能性など、法的に定められた要件を満たす必要があるため、必ず弁護士などの専門家へ相談しながら準備を進めるのが得策です。
正しい情報と計画的な対応により、新たなスタートを切るための足がかりをしっかりと築くことが可能になります。

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