会社破産で個人資産はどうなる?経営者が必ず知るべきポイント
法人破産
2025 . 10.6
法人破産
2025 . 10.6
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会社破産は、法人としての経営を清算する手続きですが、その影響が経営者個人の財産にまで及ぶかどうかは、社長が会社の債務を連帯保証しているか否かによって大きく異なります。
本記事では、会社の破産が経営者個人の資産に与える影響について、法律の専門家である弁護士が徹底的に解説します。
連帯保証のリスク、守れる資産と守れない資産の境界線、そして最悪の事態を回避するための選択肢まで、経営者様が今知るべき情報を網羅しています。
まず、会社破産と個人破産は法律上、全く別の手続きです。
そのため、会社(法人)と経営者(個人)は、法律上、別人格として扱われます。
会社の財産と個人の財産は明確に分離されており、会社の負債を経営者個人が当然に負担する義務はありません。
これが「法人格」という考え方です。
しかし、多くの中小企業では、金融機関からの融資の際に経営者個人が会社の「連帯保証人」となっているため、この原則が崩れ、会社と個人の問題が一体化してしまうのです。
法人破産は、あくまで会社(法人)が主体となって進める手続きです。
会社の資産を清算し、残った負債は法人格の消滅とともになくなります。
そのため、代表取締役や株主の個人資産が、会社の破産という理由だけで直接的に処分対象となることはありません。
一方で、経営者個人が連帯保証などによって会社の債務を個人的に負い、その支払いが不可能になった場合は、別途「個人破産」の手続きが必要となります。
個人破産は、個人の全財産(一定の自由財産を除く)を換価し、債権者に配当する手続きです。
つまり、「会社の破産」と「個人の破産」は、手続きの対象も守るべき財産の範囲も全く異なります。
会社破産で経営者の個人資産が問題となる最大の原因は、「連帯保証」です。
会社が破産して債務を支払えなくなった場合、金融機関などの債権者は、連帯保証人である経営者個人に対して「会社の代わりに返済してください」と請求してきます。
この請求は、会社の負債全額に及び、しかも一括での弁済を求められることがほとんどです。
連帯保証契約を結んでいると、会社の経営破綻は即座に個人の問題へと直結します。
個人の預貯金や不動産では到底支払えない額であれば、結果として経営者自身も自己破産を選択せざるを得ない状況に追い込まれるのです。
したがって、会社の借入時にご自身が連帯保証人になっているかどうかが、会社破産後の運命を大きく左右します。
会社が破産したとき、経営者個人の資産がどこまで影響を受けるのか、具体的な資産ごとに見ていきましょう。
原則として、会社の破産手続きにおいて、連帯保証や個人資産への担保設定がなければ、処分されません。
つまり、経営者個人名義の預貯金、ご自宅、自家用車などが処分されることはありません。
しかし、以下のような場合は、たとえ個人名義であっても処分対象となるリスクがあります(例外)。
参照 【例外】処分対象となるケース
• 個人資産を会社の借金の担保にしている場合
ご自宅の土地・建物に金融機関の抵当権(担保権)が設定されている場合、会社が返済できなくなれば、債権者は抵当権を実行し、ご自宅は競売にかけられてしまいます。
• 実質的に会社の資産とみなされる場合
個人名義の車であっても、購入費用や維持費を会社の経費で支払い、もっぱら事業用として使用していた実態があれば、「実質的な会社の資産」として破産管財人による処分の対象となる可能性があります。
なお、破産手続開始決定後に購入した資産は、自由財産となり処分の対象にはなりません。
原則として、経営者本人以外の家族・配偶者名義の固有の資産は、処分対象となりません。
しかし、会社の経営状況が悪化してから慌てて自宅や預貯金の名義を配偶者や親族に変更するといった行為は、絶対に避けるべきです。
このような行為は「財産隠し(詐害行為)」とみなされ、破産管財人によってその効力を否定され、結局は資産を取り戻されてしまう可能性があります(否認権の行使)。
最悪の場合、悪質な財産隠しと判断されると、個人の自己破産における免責が認められない(借金がゼロにならない)という致命的な事態にもなりかねません。
また、詐欺破産罪などの刑に問われることがあります。
会社破産において、経営者は財産面だけでなく、法的な責任を問われるリスクも負っています。
経営者が役員報酬を受け取らずに、ご自身の個人資産を会社の運転資金として貸し付けているケースは少なくありません。
この場合、経営者は会社に対する「債権者」の一人となります。
しかし、会社が破産すると、会社の資産から税金や従業員への給与などが優先的に支払われるため、経営者への弁済に回ってくる資金はほとんどないか、全くないのが実情です。貸付金が返ってくる可能性は極めて低いと考えなければなりません。
逆に、代表者個人名義で金融機関から借り入れたお金を会社の事業資金に充てていた場合、その借金の返済義務は、会社が破産しても経営者個人に残り続けます。
そのため、別途代表者個人において債務整理手続きをとることが必要になることがあります。
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取締役は、会社に対して善管注意義務(善良な管理者として会社経営に注意を払う義務)や忠実義務を負っています(会社法第330条、第355条)。
単なる経営判断の失敗(例:事業がうまくいかなかった)だけで責任を問われることは通常ありません。
しかし、法令違反、著しく不合理な投資、私的流用、粉飾決算といった悪質な行為によって会社に損害を与えた場合は、任務を怠ったとして、破産管財人や株主から損害賠償を請求されるリスクがあります。
経営者個人が自己破産をした場合、手続き期間中、一部の資格が制限されます。
• 弁護士、司法書士、税理士などの士業
• 警備員
• 保険の募集人
• 宅地建物取引士 など
これらの資格制限は、破産手続きが終了し「復権」すれば解除される一時的なものです。
なお、会社が破産しただけでは、経営者個人にこのような資格制限は生じません。
会社の債務を個人保証している場合、会社破産と同時に個人の資産を守るための行動を起こす必要があります。
会社の債務を連帯保証しており、その支払いが不可能な場合、経営者自身も自己破産の申立てを検討することになります。
手続きは、弁護士などの専門家に依頼し、裁判所に破産申立てを行うのが一般的です。
弁護士に依頼した時点で、債権者からの直接の取り立ては停止します。
その後、裁判所での裁判官との面談やなどを経て、最終的に免責(借金の支払義務免除)が許可されれば、連帯保証債務からも解放されます。
会社の経営が悪化する前に、連帯保証契約を解除または変更できれば、個人資産への影響を回避できます。しかし、これは容易ではありません。
連帯保証を解除するには、金融機関との交渉で、代わりの担保(不動産など)を提供したり、別の保証人を立てたりすることが求められるのが一般的です。
いずれにせよ、安易な解決策はなく、専門家の助言のもとで慎重に交渉を進める必要があります。
破産は終着点ではなく、新たな人生を始めるための出発点です。
破産後の生活について正しく理解しておきましょう。
経営者個人が自己破産した場合でも、すべての財産を失うわけではありません。
「自由財産」として、法律で生活に必要な最低限の財産は手元に残すことが認められています。
具体的には、以下のものが自由財産として保護されます。
• 99万円以下の現金
• 差押禁止財産(生活に必要な家具・家電、仕事道具など)
• 破産手続き開始後に得た収入や財産
また、裁判所の判断によっては、20万円以下の価値の資産(預貯金、保険の解約返戻金、車など)も手元に残せる可能性があります(自由財産の拡張)。
こうした自由財産の範囲について、各裁判所の運用によってそれぞれ異なることがあります。
くわしくは、お住まいの地域を管轄する地方裁判所に問い合わせるか、地元の弁護士に相談して確認すると良いでしょう。
破産後の起業は可能です。
破産したからといって、再び起業したり、会社役員になったりする権利が永久に失われるわけではありません。
ただし、現実的な課題として、自己破産後は信用情報機関に事故情報が登録されるため(いわゆるブラックリスト)、5年~7年間は新たな融資を受けることが極めて困難になります。
再起業を目指す場合は、自己資金や支援者からの出資など、融資に頼らない資金繰りの方法を考える必要があります。
連帯保証債務があり、会社も個人も支払不能状態にある場合、両方の破産手続きをどのように進めるか検討が必要です。
同時に破産申立をおこなうことのメリット、デメリットは次の通りです。
【メリット】
• 手続きの効率化
会社の管財人が個人の財産状況も合わせて調査するため、報告や面談が一度で済み、手続きがスムーズに進むことが多いです。
• 費用の軽減
弁護士に同時に依頼することで、弁護士費用が個別に依頼するより安くなる場合があります。
【デメリット】
• 費用の集中
申立て時に、会社と個人双方の予納金を同時に納める必要があり、一時的な費用負担が大きくなります。
会社破産と個人破産を別々に行うことは稀ですが、注意が必要です。
会社破産の手続きが終了した後に、各債権者から一斉に個人への請求が始まり、結局すぐに個人の破産申立てが必要になることがほとんどです。
また、会社破産前に不適切な資産移動などがあると、後の個人破産手続きで裁判所や破産管財人から問題視されるリスクがあります。
経営者として、ご自身の破産が家族に与える影響を最小限に抑えたいと考えるのは当然のことです。
前述の通り、家族固有の財産は原則として守られます。
重要なのは、その資産の原資が誰であるかです。
例えば、妻名義の預金であっても、その中身が経営者である夫の役員報酬からの贈与や資産移動によるものであれば、実質的に夫の財産とみなされ、処分対象となる可能性があります。
日頃から家計と事業の資金を明確に分離しておくことが、家族の資産を守るための最善の策です。
破産が避けられない状況で自宅などを残すための手法として、親族間売買やリースバックが検討されることがあります。
• 親族間売買
自宅などを適正な市場価格で親族に買い取ってもらう方法。
• リースバック
不動産会社などに一旦売却し、その後は賃料を払って住み続ける方法。
ただし、これらの方法は「財産隠し」と紙一重であり、極めて慎重な判断が必要です。
特に、市場価格より著しく安い価格での売却は、後に破産管財人によって否定される典型的なケースです。
実行する前に、必ず弁護士事務所などの専門家に相談してください。
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「自己破産手続における持ち家の処分と、破産後も住み続ける方法」
会社の状況によっては、破産という最終手段を回避できる可能性があります。
民事再生(法人)や事業再生ADRは、事業再生を目指す再建型の手続きです。
債権者の協力を得て再生計画を立て、事業を継続しながら負債を圧縮・減額していきます。
取引先との関係を維持できる可能性がある点が大きなメリットです。
経営者保証ガイドラインは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者が個人として連帯保証をすることを不要にするための、政府と金融機関の自主的なルールです。
そのため、経営者が事業に失敗した場合でも、個人の資産を守ることができます。
会社の破産や債務整理は、経営者一人で乗り越えるにはあまりにも複雑で、精神的な負担も大きい問題です。
弁護士に依頼することで、煩雑な書類作成や債権者や取引先との交渉、裁判所への対応などを全てまかせることができます。
これにより、経営者自身の生活再建に集中できます。
また、法的なリスクを正確に判断し、不適切な財産処分など、後々問題となりうる行為を未然に防ぐことができます。
「もう少し頑張れるかもしれない」という希望的観測が、事態を悪化させるケースは少なくありません。
相談が遅れると、選択肢が破産しかなくなり、守れるはずだった資産も守れなくなる可能性があります。
破産手続きには裁判所に納める費用がかかります。
そのため、資金繰りが完全にショートする前に、運転資金が残っている段階で弁護士に相談すれば、より有利な解決策を検討することができます。
少しでも不安を感じたら、できるだけ早く専門家の意見を聞くことが、結果的に被害を最小限に抑えることに繋がります。
会社破産により、代表者個人も破産することになった場合について、よくある質問について説明します。
会社が破産した場合でも、代表者は個人再生の手続きをとることも可能です。
個人再生とは、裁判所を通して借金を大幅に減額し、原則3年(最長5年)で分割して返済していく手続きです。
住宅ローンを除いた借金総額が5,000万円以下で、継続して収入を得る見込みがある人が利用できます。
「このままでは返済は難しいけれど、自己破産はしたくない」
「家や車などの財産は手放したくない」
という場合に有効な債務整理の方法です。
ただし、返済を前提とする手続きであるため、安定した収入があることが必要です。
参考記事
「会社破産(法人破産)をした経営者の個人再生手続きについて解説」
生命保険の解約返戻金が20万円を超える場合は、原則として解約し、返戻金が処分対象となります。
退職金も、支給見込額の8分の1(退職済みの場合は4分の1)が20万円を超える場合は、その超える部分が処分対象となるのが一般的です。
経営者個人が自己破産した場合、信用情報に事故情報が登録されるため、基本的に約5年~10年間は新たにクレジットカードを作成したり、ローンを組んだりすることは困難になります。
ただし、登録期間経過後も、新たにクレジットカードの作成ができず、ローンの審査に通らない可能性があります。
関連記事
「自己破産後からクレジットカードは使用できるのか。いつ新規契約できるのか。」
会社破産と経営者の個人資産は、「連帯保証」の有無によってその関係性が大きく変わります。
会社破産が避けられない状況でも、正しい知識を持って早期に行動すれば、個人資産への影響を最小限に抑え、ご自身とご家族の生活を守ることは十分に可能です。
民事再生など、破産以外の選択肢も視野に入れ、最適な解決策を見つけることが重要です。経営者としての責任、そして一人の個人としての未来を見据え、できるだけ早い段階で専門家である弁護士にご相談ください。
一人で抱え込まず、専門家と共に再スタートへの道を切り拓きましょう。
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