日本政策金融公庫のコロナ融資の返済が困難になった場合の対応
法人破産
2022 . 08.4
法人破産
2022 . 08.4
目 次
2019年に感染が確認された新型コロナウイルス感染症。
長引く行動制限や、経済の流れが大きく変わったこともあり、事業経営を継続するために新たな資金の借入れなどをおこなわれた経営者の方も多いのではないでしょうか。
行動制限が緩和されはじめた2022年11月頃より、当事務所への法人破産の相談が増えてきました。
なかでも、日本政策金融公庫からコロナ融資をうけているケースが多くあります。
このコラムでは、こうしたコロナ融資の返済に困られた経営者の方のために対応策について解説をしています。
2020年3月からスタートした日本政策金融公庫による「コロナ融資(新型コロナウイルス感染症特別貸付)」の返済が困難な場合に、どのような対応方法があるのでしょうか。
コロナ融資の返済が困難な場合の対応策としては、大きくは、以下のⒶとⒷがあります。
Ⓑ 廃業する
いずれの対応方法をとるかを検討する際の大きな判断要素として、「経営者個人に事業資金等の借入れ、保証がある」かどうかが影響を与えます。
経営している会社の借入れの連帯保証がない場合、廃業したとしても借入れの返済を求められることはありません。
一方で、連帯保証(保証債務)がある場合には、裁判所での借り入れに対する返済の免除を受けるための法的手続を検討する必要性が生じてきます。
以下では、ⒶとⒷのそれぞれについて解説します。
コロナ融資の制度が開始された直後、利息部分のみの返済をおこなう「据置期間」を1年~3年程度で設定された事業者も多いかと思います。
2021年3月以降、据置期間が満了して元金の返済が始まっている事業者の方も多いのではないでしょうか。
しかし、予定通り返済をおこなえる事業者ばかりではなく、長引くコロナ禍により業績が戻らず、今後の見通しも立たたず、返済に困る事業者の方も増えているようです。
元本・利息の返済が難しい事業者の方における対応策として、日本政策金融公庫に「据置期間の延長」の交渉をおこなう、ということが考えられます。
コロナ融資を受けた事業者が返済を開始し始める時期に先駆けて、2021年1月に経済産業省が日本政策金融公庫などに対して、「事業者の実情に応じた丁寧な対応や、条件変更等への柔軟な対応」を求めました。
同じ月には、内閣総理大臣・関係大臣より政府系・民間金融機関等に対して、同趣旨の内容で「中小企業・小規模事業者等の実情に応じた最大限柔軟な対応」をおこなうよう要請がなされました。
経済産業省
「新型コロナウイルス感染症の影響拡大を踏まえた資金繰り支援等について(要請)」手続きの簡素化を含めた顧客の利便性向上に取り組むこと。新規融資・資本性劣後ローンの積極的な実施・活用について最大限の配慮を行うとともに、返済期間・据置期間が到来する貸出を含めた既往債務の条件変更について、返済期間・据置期間の延長等の措置など、中小企業・小規模事業者等の実情に応じた最大限柔軟な対応を行うこと。政府系金融機関においては、条件変更時に、経営改善計画書や資金繰り表等の徴求を省略する等の運用について、中小企業・小規模事業者に周知すること。
経済産業省
「緊急事態宣言を踏まえた資金繰りの支援等について要請しました」
株式会社日本政策金融公庫宛要請文書緊急事態宣言の発出による影響により、中小企業・小規模事業者等の資金繰りに支障が生じないよう、新型コロナウイルス感染症特別貸付の融資等に当たっては、中小企業・小規模事業者等への親身な対応、適時適切な貸出、担保徴求の弾力化、新型コロナウイルス感染症特別貸付等の借入の据置期間が到来する場合も含めた元本・金利の返済猶予等の既往債務の条件変更について、引き続き個別企業の実情に応じた最大限の配慮を行うこと。
内閣総理大臣、関係大臣名より条件変更・据置期間の延長の要請はあるものの、日本政策金融公庫に応じてもらえない可能性もあります。
交渉に応じてもらえず返済を迎える場合、Ⓑの廃業を検討することになります。
なお、「新たな事業資金の借入れ」をおこなうことも選択肢のひとつになるかもしれません。
その際、「業績回復が見込めるか」「3期程連続して赤字となっていないか」など現在の事業状況を振り返り、返済不能の状況となっていないかをよく考えて行動されることをお勧めします。
事業資金や経営に、資金と時間を投入しているため、諦めきれない経営者の方も多くいらっしゃいます。
しかし、将来にわたり経営者個人としてのリスクを、どこまで背負い続けるのかを冷静になって判断することも必要ではないでしょうか。
据置期間の延長のみならず、返済計画の見直し(リスケジュール)なども交渉のひとつとなります。
リスケジュールの際に利用が可能な、経済産業省の「新型コロナ特例リスケジュール」の制度があります。
しかし、事業再生の専門家である弁護士などのサポートを受けながら、資金繰りなどの計画を立てて、金融機関との調整支援を受けることが可能ですが、国の公的機関である「中小企業再生支援協議会」を通す必要があるほか、様々な必要書類の作成・提出を要し、簡易な手続では決してありません。
問合せ窓口
中小企業 金融・給付金相談窓口 0570-783183
なお、金融庁ホームページにおける中小企業における貸付条件の変更等について、約90万件の申し込みに対して、約85万件(申込みの94%)が実行されています(令和2年3月10日から令和4年6月末までの実績)。
■ 参照データ
金融庁「金融機関における貸付条件の変更等の状況について」
コロナ融資の返済条件の変更がおこなうことが難しい場合には、
事業を完全に閉じて、法人の廃業を検討します。
この場合、次の方法が選択肢となります。
債務超過による法人廃業の方法
いずれも裁判所に対して手続をおこないます。
① 法人破産
② 特別清算
詳しい手続は、次のコラムをご参照ください。
関連記事|法人破産手続の申立準備から終了までの流れ
関連記事|【図表で全解説】特別清算手続きの申立て準備から終結までの流れについて
法人の破産手続をおこなうかどうかの判断は、① 経営者個人などが法人の保証債務をおこなっているか、② 法人に対する多数の債権者がいて債権者の平等を貫徹したほうが、混乱が少ないといえる法人かによります。
法人の廃業により、個人に借入金の返済が求められるような場合には、法人破産を検討する必要があります。
しかし、連帯保証をしていない場合には、個人への請求もないため、事実上放置をしたとしても問題が生じる可能性は低いと考えられます。
代表者が保証していない場合には、法人破産の必要度は下がりますが、債権者が多数いる場合には、督促・請求が錯綜し回収をめぐって大きな混乱が生じ経営者の再起の妨げになる可能性があります。
そのため、裁判所の監督・破産管財人の管理のもと債権者間の平等が確保できる法人破産を検討する必要があります。
なお、法人破産の手続(概要)などについては、次のページで解説しています。
中小企業庁に資料(「ウィズコロナ・ポストコロナの間接金融のあり方について」2022年6月6日)によれば、コロナ融資などの金融支援により2021年の企業の倒産件数は「記録的な低水準」であったとされています。
また、2022年6月時点で、コロナ関連融資利用者で「条件通り返済」している方は54.2%で、これから返済が始まる方は32.1%、すでに減額や返済猶予や代位弁済を受けている方は1.5%となっています。
なかでも、2021年3月までに日本政策金融公庫のコロナ融資を利用した過半数の方は返済を開始しており、「返済条件の変更および追加融資を受けた」先は、10.6%(2021年12月末時点)となっています。
帝国データバンクの調査(「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査」(2022年3月)」)によると、コロナ関連融資を受けた方において今後の「返済に不安がある」と答えた方は約1割となっています。
当事務所に相談にお越しになられる経営者の方に多いのが、資金が尽きる直前まで頑張られたケースです。
廃業の最終手段である法人破産手続も、裁判所に予納金(よのうきん)と呼ばれる費用を納める必要があります。
資金に余力がある、早い段階で弁護士に相談いただくことで余裕をもって「経営者の生活を守る」ための適切な行動をとることができます。
資金繰りにご不安がある場合には、「相談するには【まだ早い】」ではなく、「万が一に備えておく」ぐらいの気持ちで、早い段階で当事務所までご相談ください。
法人破産の必要性があるかなど、具体的なアドバイスをさせていただくことが可能です。ぜひお気軽にお問合せください。
経営者・個人の方の「個人破産」「個人再生」「任意整理」など、多くの債務整理の方法から、あなたに最適な解決策をご提案いたします。
また、会社廃業の場合における手続きについても合わせてご相談、サポートが可能です。
まずは、法律相談は無料となっております。費用は一切かかりません。
生活の立て直し、早いリスタートをするためにも早めのご相談をお勧めいたします。
初回のご相談では、① あなたが抱える悩みを、弁護士が一緒になって問題を整理、② その解決のための最適な方法をアドバイスいたします。
もちろん、個別の事情は異なるのは当然です。今ある不安や疑問にも弁護士がしっかりお答えいたします。
ぜひお気軽にお問合せください。
たちばな総合法律事務所
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也
大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。
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