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会社役員が自己破産するとどうなる?退任や責任、再就任のポイントを徹底解説


法人破産

2025 . 05.15

会社の代表者個人が自己破産をした場合、退任は必要か、再就任は可能か、自己破産をしたことによる会社に対する責任はあるのかなど、会社役員が気になるポイントについて徹底解説しています。

この記事でわかること

  •  会社役員が破産した場合、退任が必要であること
  •  破産で退任した元役員を取締役に再任可能であること
  •  法人破産の場合の役員への影響
執筆者【 弁護士・税理士 】
たちばな総合法律事務所  代表
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 橘髙 和芳

 大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
 近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995


京都大学法学部在学中に司法試験現役合格。弁護士登録後、国税不服審判所(国税審判官 平成24年~同27年)を経て、現職。担当する企業法務案件が「金融・商事判例」など専門誌に掲載された実績。破産管財人業務経験があり、法人破産、個人破産の相談や申立の実績多数。


たちばな総合法律事務所
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也

 大阪弁護士会所属/登録番号:38530
 近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169

東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事
。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。

会社役員が自己破産するとどうなる?退任や責任、再就任のポイントを徹底解説

会社役員が自己破産すると、退任することになります。

これは、会社と役員との間の契約関係が委任に関する規定に従う(会社法第330条)とされており、民法上の委任契約の終了事由に「受任者の破産手続開始の決定」が含まれているためです(民法第653条)。

参照 民法第653条(委任の終了事由)
委任は、次に掲げる事由によって終了する。
1.委任者又は受任者の死亡
2.委任者又は受任者の破産手続開始の決定を受けたこと
3.受任者が後見開始の審判を受けたこと

 

自己破産は個人が抱える多額の借金を整理するための手段として知られていますが、会社役員が自己破産する場合には、役員としての地位や責任にも大きな影響が生じます。

特に取締役や代表取締役といった重要な職務に就いている場合、会社法上の規定や取引先の信用問題など、一般の個人破産とは異なる観点での検討が必要です。

実際に役員が自己破産することで、会社との委任契約が終了して退任する必要が出てきたり、その後の再就任に制約が生じるケースもあります。

本記事では、会社役員の自己破産における退任の流れや責任問題、再び役員となる際の法的要件などを詳しく解説します。

立場を失わずに借金問題を解決するための選択肢も紹介しますので、役員としての地位を守りながら適切に債務整理を進める参考にしてみてください。

1.自己破産と会社役員の基礎知識:取締役・代表取締役との関係

まずは、会社法上の取締役や代表取締役と自己破産の関係を押さえておきましょう。

繰り返しになりますが、会社役員は、民法上は会社との委任契約によって地位が与えられると考えられています。

委任契約は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約です(民法第643条)。

会社の場合、株主総会の選任決議とその後の役員の就任承諾によって、会社は役員に対し、会社の業務執行(取締役の場合)などを委託し、役員はこれを受託するという関係になります。

ただ、自己破産が確定すると、民法の規定により委任契約は終了事由に該当するため、役員である個人と会社の関係も基本的には終了となります。

かつての法律では、破産者(復権していない者)は会社役員の欠格事由(会社法第331条などに定められていた、役員になることができない事由)とされていましたが、法改正によりこの欠格事由は削除されました。

 

2.自己破産による退任の流れと注意点

自己破産を行うことで役員の地位を失い退任する手続や、その際に気をつけるべきポイントを解説します。

自らの債務が増えすぎて自己破産を決断した場合、まず破産手続が裁判所で開始決定されると、会社との委任契約はそこで終了することになります。

これにより取締役や代表取締役としての職務権限が失われ、社内外において法的にも地位を失った状態になります。
退任後の会社執行体制に混乱が生じないよう、早めに社内で次の役員人事を検討することが重要です。

また、退任の過程では会社側も正確な情報共有を行い、混乱を防ぐ必要があります。
特に取引先や金融機関に対しては、適切なタイミングで退任に関する連絡を行い、信頼関係の破綻を回避する施策を講じることが望まれます。

2-1.会社役員の委任契約終了とは?退任タイミングを解説

会社役員は会社との委任契約に基づいて就任していますが、破産手続開始の決定は民法上の委任契約の終了事由に該当します。

そのため、会社役員が自己破産をすると、破産手続開始決定があった段階で、自動的に役員としての地位を失うとされています。

2-2.退任までの具体的な手続と退任登記のポイント

自己破産が決定したら、まずは会社に退任の意思を伝え、破産手続開始決定の事実を正式に共有します。

次に、会社の代表者や総務担当者などと連携して、法務局での登記変更手続に必要な「破産手続き開始決定」などの添付書類を準備します。

この登記は、退任の事由(この場合は「破産手続開始決定」など)が発生した日から2週間以内に、本店所在地を管轄する登記所に対して申請しなければなりません(会社法第915条第1項)。

申請を怠ると、過料の対象となる可能性があります。

役員退任の法的効果が発生する原因は、破産手続開始決定があったことにより、会社と役員間の委任契約が民法第653条の規定によって終了することです。

退任登記は、すでに発生した役員退任という法的効果(事実)を商業登記簿に反映させ、第三者に対抗できるようにするための手続き(公示方法)であり、退任という法的効果そのものを発生させるものではありません。

加えて、退任に伴う実務として、銀行口座や各種契約関連の名義変更、取引先への通知なども並行して進めるか検討する必要があります。

 

 

3.自己破産が会社に与える影響と役員責任の有無

役員個人が自己破産しても、会社にはどのような影響が及ぶのか、また役員が会社に対して責任を問われる場面はあるのかを確認します。

基本的に、個人の自己破産によって会社の債務まで背負うことはないため、会社そのものの資金繰りや負債に直接的な影響が及ぶわけではありません。
ただし、破産した役員が会社の借入金の連帯保証人となっていた場合、その連帯保証人の責任が免責されるかどうかは破産手続の進行によります。
もし連帯保証が免責されなければ、会社の負債に影響を与えるリスクが残る可能性も存在します。

また、自己破産に伴い過去の業務上の判断に不正や違法行為があったとされる場合には、損害賠償請求や刑事責任に発展する可能性も考えられます。
ただし、単に自己破産しただけでは直ちに賠償責任や犯罪行為が疑われるわけではなく、あくまで会社に具体的な損害や不正が認められるかが重要な判断材料となります。

3-1.会社に対する賠償責任や刑事責任は発生する?

会社役員が自己破産の手続に至ったケースでも、会社との間で違法となる財務処理や横領などの事実がなければ、原則として賠償責任や刑事責任は発生しません。

役員責任が問われるのは、法定の注意義務に違反した行為や重大な過失があった場合に限られます。

一方、破産の過程で過去の経理不正や背任行為などが表面化すれば、破産管財に、会社や債権者から損害賠償請求を受けたり、刑事告発されるおそれがあります。

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4.自己破産後に再び会社役員になることは可能?

退任後も経営に関わりたい、再度役員として活躍したいという場合に、法的にどのような条件下で可能となるのかを見ていきます。

会社法上、破産手続開始決定を受けたこと自体は取締役の欠格要件に該当しないため、自己破産後であっても改めて株主総会の決議などにより取締役に選任することは可能です。

しかし、実際には自己破産歴のある人物を役員に迎え入れることで、取引先との信用や投資家の意向を損ねるリスクがあるため、再就任には慎重な検討が必要となる場合もあります。

また、代表取締役への就任の可否についても基本的には取締役会や株主総会の判断によりますが、実務上は厳格に審査される可能性が高いでしょう。
例えば過去に不正や背信行為があった場合には、たとえ破産手続が終了していても役職への復帰は難しくなることがあります。

4-1.取締役の欠格事由と再任のルール

日本の会社法では、法令に違反して禁固以上の刑に処せられた者や、特定の犯罪で罰金刑を受けた者が取締役の欠格要件となります。

しかし自己破産しただけで刑事罰を受けたわけではないため、この条件には当てはまりません。
単に破産手続開始決定を受けたことは欠格事由にはなりません。

会社役員が自己破産手続開始の決定を受けたことにより退任した場合、その役員を再任することが可能になるのは、原則として破産手続において「復権(ふっけん)」を得た後になる可能性があります。

「復権」とは、破産手続を通じて失われた公法上・私法上の資格制限などが消滅し、通常の市民生活における権利能力が回復することをいいます。

復権を得る主な方法は、以下の通りです。

① 免責許可決定の確定
これが最も一般的なケースです。裁判所による免責許可決定が確定すると、同時に復権が得られます(破産法第255条)。個人の方の自己破産の多くは、この免責を目的として行われます。

② 同意による破産終結決定の確定(債権者の同意を得て破産手続が終結した場合)

③ 破産終結決定の確定
(破産財団による配当が行われた場合など)

④ 詐欺破産罪について有罪の確定判決を受けることなく破産手続開始決定後10年を経過した場合

 

破産手続が進行中である間は、破産財団の管理などが裁判所や破産管財人の管理下でおこなわれ、破産者自身が自由に財産を管理処分したり、広範な経済活動を行ったりすることに制約があります。

復権を得ることで、これらの制約がなくなり、再び対外的に完全に自由な立場で法律行為(会社との間で新たな委任契約を結ぶことなど)をおこなう能力が回復したとみなされます。

したがって、この復権を得た段階で、再び会社役員として選任され、就任すること(再任)が可能となります。

4-2.自己破産した役員が再就任する際のリスクと注意点

再就任にあたっては、金融機関や取引先から過去の自己破産歴を理由にした経営上のリスクに注意する必要があります。

特に新規の融資を得る際には、会社の代表者や役員の信用状態が厳しくチェックされるため、過去の破産歴が審査に影響することが考えられます。
また、法人の事業資金借入に際して役員個人が保証人となることを求められることがありますが、審査に通らない可能性もあります。

 

 

5.会社が破産した場合の役員個人への影響

会社自体が破産した際、役員個人がどのように責任やリスクを負うことになるのかを解説します。

もし会社が倒産し破産手続に移行した場合、会社の負債が役員個人に直接負わされることは通常ありません。

ただし、役員が会社の借入金や銀行融資などに連帯保証人として名前を連ねていた場合には、会社が返済不能になると連帯保証債務を個人で負担するリスクが高まります。

また、法人の破産手続きにおいて選任された破産管財人がおこなう、破産管財業務に協力する義務もあります。

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さらに、取締役などの役職に就いている場合、会社の破産時に違法行為や重過失があったと判断されると、債権者から役員個人を相手に損害賠償請求を行われる可能性があります。

したがって、社内管理体制やコンプライアンスを徹底し、日頃からリスクに備えた経営を行うことが非常に重要です。

5-1.連帯保証や損害賠償責任が生じるケースとは

連帯保証契約を締結していた場合、会社の破産により債務の返済が滞ると保証人である役員個人へ請求が及ぶことになります。

多額の債務を個人でカバーしなければならず、破産手続へと進まざるを得なくなる方も少なくありません。

さらに、意図的な虚偽記載や財産隠匿などの不正行為が認められれば、会社破産後であっても役員個人に対して損害賠償請求が行われる可能性があります。

経営判断の過程で法的・道義的に問題のある行為を行った場合、対外的に厳しい責任追及を受ける可能性があるため注意が必要です。

また、会社が滞納する社会保険料などの租税公課(税金)について、社長個人に第二次納税義務があるとして、支払いの責任が生じるケースがあります。
この第二次納税義務については、次のコラムで詳しく解説しています。

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6.自己破産以外の債務整理方法と役員への影響

取締役、代表取締役といった役員の債務を解決する手段としては、自己破産だけではなく、任意整理や特定調停、民事再生(個人再生)など複数の方法があります。

これらに共通したメリットとして、自己破産と異なり取締役の欠格事由には当たらず退任する必要がないことが挙げられます。

なお、いずれの債務整理方法によっても個人信用情報機関に事故情報が登録されるため、新たな借り入れやクレジットカードの作成が難しくなります。

 

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6-1.任意整理・特定調停による解決策

任意整理は、債権者と直接交渉し、月々の返済額や利息の減免を図る方法です。

メリットは柔軟な返済条件、話し合いが可能であることです。
デメリットは、債権者が任意交渉に応じる義務がなく、また負債を大幅に減額できる可能性が低い点が挙げられます。

特定調停は簡易裁判所に申立てをおこない、調停委員を介して話し合いによる和解を目指す手続きです。

メリットは、裁判所に納める手数料(申立手数料、郵券代など)が、自己破産や個人再生といった他の裁判所を通じた手続きに比べて安価であり、自己破産のように、めぼしい財産(持ち家や車など)を処分する必要がなく、裁判所が関与するため、話し合いが進みやすい点などが挙げられます。
デメリットは、債権者の合意が得られないと成立しないことや、返済計画にしたがい借金返済をおこなうため安定した収入が必要となる点です。

6-2.民事再生(個人再生)を選択するメリット・デメリット

民事再生(個人再生)は、裁判所の手続きを通じて借金を大幅に圧縮し、残りを分割して返済していく制度です。

従前どおりの返済条件で住宅ローンを支払うことで、自宅を維持したままほかの負債を圧縮することも可能で、資産保全を図りつつ債務整理を進められる利点があります。

一方で、利用には一定の要件が求められ、手続が複雑で申立書類や再生計画の策定に手間や専門的知識が必要です。また、返済計画に従って、原則3年間で返済をおこなうため安定した収入が必要となります。

当事務所でも、会社は破産するものの、代表者個人については個人再生手続きをおこなうケースもあります。
詳しくは、次のコラムで解説しています。

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7.まとめ

役員の自己破産は退任や再任などさまざまな手続きや責任が関わるため、状況に応じた債務整理の方法とリスク管理が重要となります。

会社役員が自己破産すると、役員の地位を失うほか、再就任を希望する場合にも信用面や金融機関の評価など実務面でハードルが存在します。
ただし、法的には破産自体が取締役の欠格要件に該当しないため、再任される余地は残されています。

また、自己破産以外にも任意整理や特定調停、民事再生などの方法を検討し、会社役員としての立場と両立できる解決策を模索することも選択肢として考えられます。
自らの経営判断と整理のタイミングを見極め、適切な手段を選択することで、将来的なリスクを最小限に抑えながら事業を続けていくこともも模索することが可能です。

万が一、ご自身の状況に応じた適切な負債整理の方法の判断が難しい場合、弁護士に相談されると良いでしょう。

たちばな総合法律事務所では、法人破産だけでなく、経営者の方の生活再建に向けた負債整理(個人再生・自己破産・任意整理)についてもサポートしています。

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