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破産管財人とは(破産手続における役割と権限)


個人破産

2023 . 05.10

破産手続における破産管財人の職務や権限、破産者が破産管財人との関係で注意すべきポイントについて解説しています。

執筆者【 弁護士・税理士 】
たちばな総合法律事務所  代表
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 橘髙 和芳

 大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
 近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

京都大学法学部在学中に司法試験現役合格。弁護士登録後、国税不服審判所(国税審判官 平成24年~同27年)を経て、現職。担当する企業法務案件が「金融・商事判例」など専門誌に掲載された実績。破産管財人業務経験があり、法人破産、個人破産の相談や申立の実績多数。


たちばな総合法律事務所
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也

 大阪弁護士会所属/登録番号:38530
 近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169

東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事
。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。

1.破産管財人とは

破産管財人は、破産手続において裁判所から選任されます。

参照条文 | 破産法2条第12項(定義)

この法律において「破産管財人」とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。

破産管財人の業務は、裁判所の監督のもと、破産管財人は、すべての債権者の代表として破産者の財産の管理・処分、債権者への配当手続などをおこないます。

なお、破産者に対する支払いを求める権利を「破産債権」、その権利を有する個人や法人を「破産債権者」と言います。

破産管財人の主な業務は次のとおりです。

参考 | 破産管財人の職務例

 ☑ 破産者財産の調査、回収、換価処分
 ☑ 破産債権の届出に対する認否
  (債権者:債権の有無、債権額の確定、破産者:債務額の確定)
 ☑ 従業員の解雇(雇用契約の解約)
 ☑ 債権者への配当手続き
 ☑ 裁判所・債権者への報告
  (債権者集会の決議等に基づく説明義務(破産法40条)
 ☑ 個人の破産手続における免責不許可事由があるかの調査

また、個人破産の場合における破産管財人は、破産者の経済的な更生をはかる役目もあります。
そのため、破産手続開始決定後の生活状況の観察や監督を通して指導をおこなうこともあります。

このように、「債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする」破産法の趣旨にのっとって、その業務を行います。

1-1.裁判所が選任する

破産管財人は、破産裁判所からの破産手続開始決定と同時に選任されます。

参考 | 法人の破産決定書(破産管財人の記載)

令和5年(フ)第00000号 破産事件

決  定

  大阪府●●市●●町1丁目2番地の3
  債務者 たちばな たろう

主  文

1 債務者 たちばな たろうについて破産手続を開始する。
2 破産管財人に次のものを選任する。
  大阪市北区堂島●丁目●番●●号 ●●ビル4階
  ●●●法律事務所
  弁護士 ●● ●●

(記載略)

令和5年●月●日午後3字
 大阪地方裁判所第6民事部
  裁判官 ●● ●●
これは正本である。
令和5年●月●日
 大阪地方裁判所第6民事部
  裁判所書記官 ●● ●●

破産管財人として選任されるのは、自身が破産申立を経験したことがある弁護士であることがほとんどです。

法律上、破産管財人は弁護士に限られるわけではありません。
しかし、訴訟対応が発生する可能性や、幅広い法律知識が必要であるとの理由から、実務上では弁護士から選任されています。

破産管財人は、利害関係人、とくに「債権者」の利益確保のために活動をおこないます。
そのため、破産手続に利害関係のない公平な立場の弁護士が破産管財人として就任する必要があります。

打診を受けた弁護士は、破産者の債権者と利害関係のないことを確認するため、裁判所で破産申立書に添付された債権者一覧表や、売掛先などの内容を事前に確認します。

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1-2.破産管財人が選任されない場合

破産管財人は必ず選任されるわけではありません。
破産管財人は、個人の自己破産手続で「同時廃止」となる場合には選任されません

同時廃止とは、債権者に配当するような財産もなく、破産手続を進めることができない場合に、破産手続開始決定と同時に「破産手続を廃止」され終了する手続です。
このことから破産管財人が選任されない破産手続のことを「同時廃止」と呼んでいます。

なお、破産管財人が選任されるかどうかの運用基準は、地方裁判所ごとに異なります。
どのような場合に、破産管財事件となるかの判断基準を事前に確認しておくのも良いでしょう。

図表 | 破産手続における破産管財事件と同時廃止の流れ

なお、破産者に財産がない場合にのみ、「同時廃止」と判断されるわけではありません。

破産手続の最大の目的は、借金を免除する「免責許可決定」を受けることです。
しかし、免責が「不許可」となるケースが法律に定められており、そのケースに該当することが疑われる場合には、破産管財人が選任されることがあります。

参考 | 免責不許可となる行為の具体例(破産法252条1項1号から同10号

 ☑ 支払い不能状態で、一部の債権者にだけ返済した(偏頗弁済:へんぱべんさい)
 ☑ 当時の資産・収入に見合わない無駄遣い、ギャンブルによる借金
 他人の名前を使って借金をした
 ☑ 前回破産し免責許可決定を得てから7年以内の破産
 財産を著しく安い価格で処分した
 財産を隠す(財産隠匿。ざいさんいんとく)

免責不許可については、次の関連記事でもくわしく解説しています。

関連記事 | 自己破産申立を行ったのに借金が免除されない「免責不許可事由」とは
個人の自己破産の最終目的は、借金の免除を受けることです。しかし、法律では免責を許可しないケースを定めています。この関連記事では、免責不許可となる場合について解説しています。
関連記事 | 個人破産で「免責不許可事由」があったとしても、裁量免責が受けられる場合とは
免責不許可事由にあたるようなケースでも、免責許可決定を受けられる可能性があります。
裁判所による判断で、免責許可を与える場合を「裁量免責(さいりょうめんせき)」と言います。この関連記事では、免責不許可となった実際の事例や、裁量免責のパターンについて解説しています。

なお、裁判手続きの運用は、地方裁判所により異なります。
そのため破産管財事件の運用基準にもとづく、事件の種類の分類や呼び名も違うことがあります。

例えば「少額管財」と呼ばれる手続きは、法律で規定されたものではなく、裁判所の運用上認められているものです。
管財事件に比べて、予納金額が20万円程度で済み、終了までの期間も3か月~6か月程度と短い手続きです。

東京地方裁判所や大阪地方裁判所では、大規模破産などを除いて通常の破産管財事件は、すべて少額管財方式である「一般管財事件」となります(少額管財という手続名ではありません)。

2.破産管財人の主な業務と権限

破産管財人の業務内容は、手続内容や結果に影響を与える職務ばかりです。

2-1.破産者財産の調査・管理・換価処分

破産管財人は、債権者へ少しでも多く金銭を配当できるように、破産者の資産を調査し、回収・処分することが大きな職務のひとつです。

法人破産の場合、会社の資産は処分しお金に変えます。
この換価処分は、所有自動車(売却代金)、保険契約(解約返戻金)、銀行口座(預貯金)など、その名義となっているものに限らず、事実上破産者の財産が対象となります。

なお、個人の自己破産の場合は、一定の範囲で財産を手元に残すことができます。
これを「自由財産」と言います。
この自由財産以外の破産者の財産の管理・処分の権利は、破産管財人に移ります。

ただ、個人の破産において、「自由財産の拡張」と呼ばれる制度があり、破産者の個別の事情に応じて、生活再建などの観点から本来の「自由財産」以外で手元に残せる財産の範囲を広げることができます。

例えば、高齢者である両親の介護施設への送迎のために自動車が必要である場合には、裁判所の判断で自動車を処分せず手元に残すことが考えられます。
この自由財産の拡張についても、基本的な流れは法律上定められていますが、運用については各地方裁判所によって異なる場合があります。

また、破産手続開始時に破産申立書の財産目録に記載し忘れていた財産は、原則として自由財産拡張の対象にはなりません。
しかし、財産目録に記載していなかったことについて、やむを得ない事情があると認められる場合には、自由財産拡張が認められる可能性があります。

破産管財人の管理・処分の権利がおよぶ、破産者の財産を「破産財団(はさんざいだん)」と言います。

参照条文 | 破産法2条第14項(定義)

この法律において「破産財団」とは、破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。

この破産財団を増殖させるために、次のようなことをおこないます。

2-1-1.破産者宛の郵便物の転送

破産手続開始後、破産者宛の郵便物は一旦、破産管財人に転送されます。
転送された郵便物については、中身を開封し確認をおこないます。

① 自己破産申立書に記載された以外の財産が存在しないか、② 破産申立書の債権者一覧表に記載された以外の債権者が居ないかを調査することを目的にしています。

郵便物は調査されたのち、破産者に返されます。

破産手続期間中は、郵便物の転送がおこなわれます。

転送されるのは破産者宛に届く郵便物のみで、宅急便で届くものや家族宛のものは転送されません

換価業務

破産管財人は、破産者の財産を換価処分します。
裁判所の許可を得たり、あらかじめ裁判所から許可を得ている範囲において売却をおこないます。

なお、破産者が特定の債権者にだけ返済をおこなっている場合(偏頗弁済)や、偽装離婚などによる財産隠し(名義変更や不当に安い価格で処分)をおこなっている場合には、それらの行為を否認して財産を取り戻すこともあります(「否認権の行使」)

参考 | 否認権行使の対象となる可能性のあるケース

<法人の場合>
 ☑ 法人資産を個人に移す
 ☑ 一部債権者、取引先のみに返済をおこなう(偏頗弁済

<個人の場合>

 ☑ 不当に安い価格、無償で財産等を処分する(廉価処分
 偽装離婚などによる不動産の名義変更(東京地裁平成25年9月2日判決など)


意図的に債権者の利益を害する行為は「詐欺破産罪(破産法265条第1項)」として刑事罰(1ヶ月以上10年以下の懲役、1000万円以下の罰金の一方または両方)」を受ける可能性がある
ので、注意が必要です。

破産申立前に資産を処分する場合には、複数の業者から査定書を取りつけて「適正な価格」で「適切に処分」するようにします。

2-2.債権者集会での報告、配当手続

破産管財人は、裁判所や債権者に、債権者集会と呼ばれる裁判期日において、その財産換価作業の状況報告をおこないます。

なお、債権者集会は、債権者が意見申述をおこなう機会でもあり、破産者(法人破産の場合は代表者)は出席しなければなりません。(他方で、債権者の出席は義務ではなく、債権者が1名も参加しない可能性もあります。)

また、郵便物のチェックなどにより破産申立書に記載された以外の債権者がいないかを確認します。

また、債権者が届出した内容についても、抵当権などの担保権がついているか、破産法上配当が優先される債権かなどの調査・確認のうえ確定します。

財産の換価作業の結果、債権者に配当するに足りる破産財団が形成できている場合、破産管財人は債権者に対して配当をおこないます。

2-3.管理処分権の放棄

破産財団に属する財産も、特に価値がない場合や、管理処分をすることで多額の費用がかかるなど、破産財団にとってマイナスとなる場合には、破産管財人が裁判所の許可を得たうえで手放すことがあります(財団放棄)。

個人破産の場合、破産財団から放棄された財産は破産者の自由財産となります。

2-4.契約関係の処理

法人破産では、事業のために借りていたテナントの解約、法人名義の携帯電話利用契約など契約関係の清算をおこないます。

なお、事業用テナント等を賃貸している場合には、破産申立前に解約し明け渡しをしておくことが重要です。
破産申立て時に賃借物件の明け渡しが済んでいない場合、裁判所に納める破産管財人の費用が跳ねあがることがあります。

例えば、大阪地方裁判所の法人破産の予納金は、最低額20万5千円ですが、申立時点で明け渡しが済んでいない賃借物件が1つある場合、50万円以上の用意が必要とされています(「はい6民です お答えします 倒産実務Q&A」大阪弁護士協同組合)。

2-5.免責不許可事由等の調査

破産管財人は、個人の免責手続において、次の内容について調査、裁判所への報告、意見を述べます。

 免責不許可事由があるか
 ② 免責不許可事由に該当する行為があった場合でも破産者の反省の程度などの事情をふまえ、裁判所の判断で免責許可決定を出すことが相当かどうか(裁量免責の可能性があるか

 

3.破産管財事件で破産者が気をつけるポイント

破産管財人は選任されるケース(破産管財事件)では、申立人である破産者(法人の場合、経営者)は次の点について注意が必要です。

3-1.破産管財人への協力

破産者(法人の場合は経営者)は、破産管財人の業務の協力義務があります。

破産申立後の裁判官との面談(破産審尋、はさんしんじん)、破産管財人との面接や債権者に対する報告をおこなう債権者集会への出席、破産管財業務で生じた不明点等への回答などが挙げられます。

破産管財人の面接や、債権者集会は複数回おこなわれることがあります。

これらの協力を怠ると、個人の場合にあっては、免責に影響が生じる可能性があります。
そのため、破産管財人との関係を良好に保つため、誠実に対応することが求められます。

破産管財人が、毎月の家計収支の作成と破産管財人の事務所への提出を求めてきた場合には(この指示を受けるのはギャンブルや浪費が原因で借金をした場合がほとんどです)、領収証を保存し家計収支表を作成する必要があります

3-2.予納金の金額

個人の自己破産手続で、破産管財人が選任される場合、裁判所に納める費用(予納金)は同時廃止に比べて、高くなります。
破産管財人に引き継ぐ予納金は、管財業務を円滑に遂行するための費用や破産管財人の報酬を含むものとして納めます。

また法人破産の場合においても、債権者数や賃貸物件の明け渡し作業が発生するかなどの事情を考慮し、具体的な予納金額が決められます。

裁判所に予納金を納めない場合、最終的に申立てを棄却されてしまいます。(門前払いされてしまう)

通常、予納金は現金一括納付です。
あらかじめ申立前の裁判所の予納金額を確認し、準備をおこなっておくことが大切です。

参照コラム | 会社の法人破産手続にかかる全費用の詳細と、支払えない場合の対応方法
法人破産にかかる裁判所費用、弁護士費用、実費などについて解説しています。

 

3-3.破産管財人に郵便物が転送

先の項目で説明したとおり、破産手続き開始後、破産者宛に届く郵便物は、破産管財人へ転送されます。

破産管財人は、新たな債権者の有無、申立書記載以外の財産は存在しないのか等を調査するために開封し、中身を確認します。
確認後、郵便物は破産者に渡されます。

急ぎの用件である郵便物については、予め破産管財人に郵便物の内容や急いで対応する必要があることを伝えておくことで、調査後速やかに手元に届くよう配慮を受けられることがあります。

3-4.転居・旅行の同意

個人の破産者の場合、住居制限があります。
転居や旅行をする場合には、破産管財人の許可を得たうえで、裁判所に許可をとる必要があります。

弁護士に代理人がついている場合、次のような許可申請書を裁判所に提出します。

参考 | 旅行許可申請書の書式例

破産事件令和●年(フ)第●●●号
破産者 ●● ●●

旅行許可申請書

令和●年●月●日

大阪地方裁判所 第6民事部 御中

申立人(破産者)●● ●●
代理人弁護士 橘高 和芳

記破産者に関する頭書事件につき、下記内容の破産者の旅行の許可申請をいたします。
1 行先
2 期間
3 目的

同意書

破産者のなす上記旅行に同意します。

令和●年●月●日

大阪地方裁判所 第6民事部 御中

破産管財人 ●● ●●

なお、破産手続きが終結すると、海外旅行や転居は自由におこなうことができます。

まとめ

以上のように、破産管財人が選任された破産申立て事件において、さまざまな注意点があります。

法人破産においては、原則として破産管財人が選任されます。
そのため、破産管財事件では、手続きや対応が複雑になることも多く、手間もかかります。

弁護士に法人破産、個人破産を依頼されるメリットは、次の点が挙げられます。

 ① 債権者からの督促が止まる
 ② 債権者・取引先・裁判所の窓口対応を任せられる
 ③ 書面作成・提出など裁判所の対応
 ④ 破産管財人との面接への同席
 ⑤ 弁護士が代理人となっていることで少額管財など
   費用や事務負担の少ない手続きをとることができる場合がある

 

裁判所によっては弁護士が代理人についていることで、破産手続開始決定がすぐに出る場合や、予納金が低額で済む少額管財手続きの利用が可能になる場合もあります。

弁護士依頼のデメリットは、費用がかかることです。

しかし、費用を支払うからこそのメリットも大きいと言えます。
法人破産を決意された場合には、弁護士に依頼されることを検討してみてはいかがでしょうか。

当事務所では破産管財人の経験と知識をもつ弁護士が、申立代理人として破産申立を最後までフルサポートしています。
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