会社代表の自己破産は可能?代表取締役個人の破産手続きと会社への影響を徹底解説
個人破産
2025 . 12.24
個人破産
2025 . 12.24

目 次
会社の資金繰りが厳しくなる中、「会社は守りたいが、個人の借金(連帯保証など)だけでも整理したい」と考える経営者は少なくありません。
代表取締役個人の自己破産は、会社法や民法の規定、連帯保証の有無など、複雑な権利関係が絡み合います。
本記事では、代表取締役個人のみでの自己破産の可否、手続きが会社運営に及ぼす致命的なリスク、そして「同時破産」の現実的な選択肢まで、実務の観点から徹底解説します。
家族や従業員への影響、手元に残せる財産(自由財産)、再起に向けた融資制度についても網羅していますので、経営判断をおこなうための参考にしてください。
代表取締役個人のみの自己破産は、法的には可能です。
法人と個人は法律上、全く別の「人格」であるためです。
しかし、実務上は「社長個人の破産=会社の破産」とならざるを得ないケースが大半を占めます。
なぜなら、中小企業の場合、会社の借入金に対して代表者が「連帯保証人」となっていることがほとんどだからです。
この場合、個人と会社は運命をともにします。
なお、住宅ローンが残る持ち家を守るために、自己破産ではなく個人再生手続きを利用することも可能です。
この場合の対処法については、次のコラムで詳しく解説しています。
中小企業が銀行や信用金庫から融資を受ける際、代表取締役が連帯保証契約を結ぶことが一般的です。
もし主債務者である会社が法人破産を申し立てた場合、債権者(金融機関)は「保証人である会社代表者個人」に対しても一括返済を求めることが通常です(期限の利益の喪失)。
その結果、会社代表者に一括返済できる現金がなければ、個人も債務整理は避けられません。
まずは、ご自身が「どの範囲まで保証債務を負っているか」を契約書等ですぐに確認してください。
関連記事
「法人破産における代表者・社長の責任と義務の範囲」
資金繰りが破綻し、法人破産が相当な状況にもかかわらず、手続き費用が捻出できない等の理由で会社を「放置」しようと考える経営者もいます。
この際、判断の分かれ目となるのが、代表者が会社の連帯保証人になっているかどうかです。
もし代表者が連帯保証人になっていない場合、法人の債務支払義務は原則として代表者個人には及びません。
そのため、あえて費用をかけて法的整理を行わず、事実上の活動停止(放置・休眠)を選ぶことも、実務上の一つの選択肢となり得ます。
しかし、安易な放置には以下のような見落としがちなリスクが潜んでいることに注意が必要です。
「連帯保証がないから絶対に安全」と自己判断せず、これらのリスクを回避するために必ず専門家である弁護士の相談を受けることをおすすめします。
「自己破産をすると、もう二度と社長にはなれない」と誤解している経営者は多いですが、法律上は再度の就任が可能です。
ただし、手続き上の「退任」と「再任」のプロセスを正確に理解しておく必要があります。
かつての旧商法では、破産者は取締役の欠格事由とされ、辞任せざるを得ず、再任もできませんでした。
しかし、平成18年施行の会社法により、この規定は撤廃されました。
現在では、破産者であっても、法律上は取締役や代表取締役に就任すること自体に制限はありません。
ここが最大の注意点です。
会社法等の規定により、破産手続き開始決定を受けると、会社と役員の間で結ばれている「委任契約」は終了します(民法第653条)。
つまり、自己破産をした瞬間に、代表取締役の地位を自動的に失います(退任)。
社長を続けるためには、改めて株主総会を開催し、取締役に選任され、さらに取締役会等で代表取締役に選定されるという「再任」の手続きを経なければなりません。
自身がオーナー株主であれば再任は容易ですが、外部株主がいる場合は、破産した人物を再度トップに据えることへの同意を得るという高いハードルがあります。
破産手続きを経て免責(借金の支払い義務の免除)が確定すれば、新たに会社を設立することは可能です。
しかし、信用情報機関(いわゆるブラックリスト)に事故情報が登録されているため、以下の点に注意が必要です。
再起業を目指す場合は、自己資金の範囲内でスモールスタートを切るか、信用力のあるパートナー(共同経営者)を立てるなどの戦略が求められます。
関連記事
「自己破産後からクレジットカードは使用できるのか。いつ新規契約できるのか。」
登録期間経過後もクレジットカードの新規申込、ローン審査に通らない場合があります。こうした場合の代替方法などについても説明しています。
会社代表者の破産は、一般的な個人の破産とは異なり、手続きが複雑化する傾向にあります。
個人の破産には「同時廃止」と「管財事件」の2種類があります。
会社代表者の場合、その多くは「管財事件」になります。
財産がほとんどなく、調査の必要もない場合。手続きが早く終わる。
会社代表者や個人事業主、一定の財産がある、または免責不許可事由の調査が必要な場合。
裁判所が選任した「破産管財人」が、財産の調査・換価(現金化)・配当を行います。
代表者は、会社との資金のやり取りや資産隠しの有無などを厳密に調査する必要があるため、資産がなくても管財事件(特に少額管財)として扱われることが一般的です。
管財事件になると、裁判所に納める「引継予納金(管財予納金)」が必要です。
引継予納金
少額管財の場合、最低20万円程度〜(裁判所により異なる)。
通常管財の場合は50万円以上かかることもあります。
弁護士費用
個人のみか、法人と同時かによって異なりますが、数十万円〜100万円以上かかるケースもあります。
費用が用意できないと手続きを開始できないため、「完全に資金が尽きる前」に弁護士へ相談することが、スムーズな倒産処理の鉄則です。
全てを失うわけではありません。
破産法では、生活再建のために「自由財産」として以下の財産を手元に残すことが認められています。
経営者が最も心配するのが、家族や従業員への影響です。
感情的な不安だけでなく、法的にどのような影響が及ぶかを正確に把握しましょう。
配偶者や親族が会社の借金の「連帯保証人」になっている場合、主債務者である会社や代表者が破産しても、保証人の返済義務は消滅しません。
むしろ、債権者からの一括請求が保証人に集中することになります。
この場合、保証人である家族も一緒に債務整理(自己破産や個人再生)を検討しなければならないケースが多いです。
自宅が家族名義であっても、保証人になっていれば処分の対象となる可能性があるため、早急な対策が必要です。
関連記事
「自己破産や法人破産で掲載される官報とは(#自己破産官報)」
法人も同時に破産する場合、全従業員を解雇することになります。
未払い賃金がある場合は、「未払賃金立替払制度」(労働者健康安全機構)を利用することで、給料の一部を国が立て替えてくれる仕組みがあります。
詳しくは次の記事で解説しています。
自己破産を経験した経営者でも、再チャレンジの道は閉ざされていません。
公的な支援制度を活用することで、再起業のチャンスがあります。
日本政策金融公庫には「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」という制度があります。
これは、廃業歴や破産歴がある経営者であっても、廃業の事情などを勘案し、再び事業を行うための資金を融資するものです。
「良いビジネスモデルがあるが、過去の失敗がネックで民間銀行から借りられない」という場合でも、事業計画の実現可能性が高ければ融資を受けられる可能性があります。
参照リンク
▶ 日本政策金融公庫 | 再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
ご利用いただける方
新たに開業する方または開業後おおむね7年以内の方で、次のすべてに該当する方
1.廃業歴等を有する個人または廃業歴などを有する経営者が営む法人であること
2.廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込みなどであること
3.廃業の理由・事情がやむを得ないものなどであること
従来の融資とは異なる新しい資金調達手段として、クラウドファンディングの活用も選択肢に入ります。
クラウドファンディングには、主に「購入型」「寄付型」「融資型(貸付型)」「投資型(株式型)」などの種類があります。
例えば、購入型は、商品やサービスのアイデアを公開し、それに共感した支援者から資金を集める方式です。
金融機関のような信用情報の審査(ブラックリストの確認)がないため、過去の破産歴が直接的な障害になりにくいのが最大の特徴です。
自己破産後の銀行融資が難しい時期でも、事業のアイデアや将来性が評価されれば資金を集めることができます。
ただし、プラットフォームによっては代表者の反社チェックや過去の経歴確認が行われる場合があるため、利用規約の確認が必要です。
自身の再起にかける想いや、過去の経験を活かした具体的な事業計画を誠実に発信することで、資金だけでなく、事業を応援してくれるファンを獲得できる点も大きなメリットと言えます。
会社代表者の自己破産は、手続きを進める上で注意すべき点が多いため、事前に弁護士に相談しアドバイスを受けておくと安心です。
弁護士に相談する際は、以下の情報を整理しておくと、具体的なアドバイスを受けることができます。
「企業法務」と「個人の債務整理」の両方に精通している事務所を選ぶことが重要です。
特に法人破産(管財事件)は、手続きをスムーズに進めるうえで専門知識だけでなく実務上の運用の理解が必要です。
多くの事務所が「初回無料相談」を行っています。
一人で悩んでいる間にも、会社の資金は減り続け、打てる手は少なくなります。
被害を最小限に食い止めるために、資金が底をつく前に、今すぐ専門家の無料相談を活用してください。
会社代表者の自己破産は、単なる借金の整理以上の重い決断です。
しかし、正しい知識を持って法的手続きを行えば、借金の重圧から解放され、人生の再スタートを切ることは十分に可能です。
最も危険なのは、誤った知識で判断を先送りにし、資金が完全に枯渇してしまうことです。
予納金すら払えなくなると、法的な解決の道も閉ざされてしまいます。
会社と家族、そしてあなた自身の未来を守るために、一日も早く専門家に相談してください。
たちばな総合法律事務所では、法人・個人の借金問題に関する無料相談を受け付けています。
法律相談は、電話(10分)、来所相談(60分)にておこなっています。
まずはお気軽に、電話やメールなどでお問い合わせください。
来所による法律相談では、財務状況や生活状況、ご希望などを丁寧にお伺いしつつ、① 解決策のご提案、② 解決までの見通し、③ ご不安や悩みといった個別の質問への回答をおこなっています。
来所相談は随時WEBフォームでも受付中ですので、ご予約の上、ご相談ください。
なお、お問い合わせ自体も外部に漏れることはありません。
安心して、お問い合わせ、ご相談ください。
© 2025 たちばな総合法律事務所