自己破産できる条件、自己破産できない場合の解決方法
個人破産
2024 . 03.29
個人破産
2024 . 03.29
この記事でわかること
たちばな総合法律事務所
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也
大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。
目 次
自己破産には法人、個人があります。
このコラムでは、個人の自己破産について解説します。
法的手続である自己破産手続の最大の目的は、免責決定を得ることです。
免責決定は返済義務を免除する、裁判所の判断です。
自己破産は借金を帳消しにすることで、生活の債権を図るための最終手段です。
ただ、いかなる場合にも自己破産できるというわけではありません。
自己破産できる条件として次の3つがあります。
支払不能な状態、つまり借金の返済が不可能になっていることが必要です。
単に、一部の債権者に対して返済したくないから、という理由では破産できません。
借金が収入を上回り、資産の処分や生活費の圧縮などをしたとしても到底支払いができない状況にあることです。
経験則からすると、個人についてはは、銀行・クレジットカード会社・サラ金といった外部借入の総額が年収額を超えると、「支払不能」となります。
法人については、支払猶予の状況にもよりますが、滞納している社会保険料や税金を12回分割で支払う資金繰りがつかないとき、営業損益が赤字のとき、営業損益が黒字でも約定通りの支払元利金を支払えないときなどは「支払不能」となります。
また、法人については、債務超過のときや手形の不渡りも破産手続の開始原因とされています。
なお、一時的に返済ができない、というだけでなく、継続的に将来に渡って支払いが困難であることが必要です。
家族の構成や収入は自己破産手続の中で確認されます。
家族構成とそれぞれ同居か、仕事・職業は何か、収入金額を確認されます。
家族と生計を同一にしている場合、つまり家計を同じにしている場合には給与明細など収入に関する資料を裁判所へ提出することになります。
これは家計におけるお金の流れを確認することをも目的に確認をおこなうもので、家族の収入を理由に破産が認められないことはありません。
また、自己破産をしたからといって、夫婦・親子であっても別個の人格であるため、家族が本人の連帯保証債務を負ったり、財産を取られたりすることもありません。
家族に迷惑をかけないか心配な方は、次の参考記事をご確認ください。
自己破産によるご家族への影響について紹介しています。
法律で、次の原因による借金は、支払い義務を免除しないとしています。
法律用語で「免責不許可事由(めんせきふきょかじゆう)」と言います。
【免責不許可事由の例】
1.多額のギャンブル・浪費による場合
(ギャンブルの例)投資・投機、ネットワーク/マルチビジネス、競馬・競輪・競艇
(浪費の例)飲食飲酒(2万円/回以上)、商品購入、ソーシャルゲーム課金
2.廉価処分(信用取引によって商品を購入し著しく不利益な条件で処分)
3.偏頗行為(支払不能にありながら,特定の一部債権者にのみ返済した)
4.詐術(破産申立前1年以内に他人名義で借金などをした)
5.申立て前7年以内に破産免責手続を利用して免責の決定が確定した
6.申立て前7年以内に給与所得者等再生手続を利用し再生計画通りに弁済を終了した
7.自己破産時の財産処分を逃れるためにした財産隠し、損壊
(不当な破産財団の価値減少行為)
8.破産管財人の職務を妨害し、裁判所へ虚偽の事実を説明する行為
原則として上記の免責不許可事由に該当する場合には、免責不許可となります。
自己破産手続をおこなう目的である免責決定が得られないのであれば、時間や費用をついやして手続をおこなう意味がありません。
ただ、後の項目「2.例外的に破産できる場合(裁量免責)」で説明するとおり、裁判所の判断で例外的に免責を受けられる場合もあります。
免責不許可事由があるケースで自己破産を考えている方は、免責決定が得られるかの見通しを弁護士に相談のうえ確認しておかれると良いでしょう。
自己破産の対象は基本的に「借入れ」です。
公租公課、つまり税金や交通事故の加害者として被害者に支払う損害賠償金、離婚にあたり未成熟の子の養育費などは自己破産の免責対象になりません。
【非免責債権の例】
1.公租公課(税金。破産法第253条1項1号)
例:個人事業主の滞納社会保険料、国民健康保険料
2.未成熟子に対する養育費(破産法第253条1項4号ハ)
3.不法行為による損害賠償金(破産法第253条1項2号、同条1項3号)
例:重過失による交通事故(飲酒運転)加害者としての賠償金(被害者を死傷させた場合)
例:悪意をもって不法行為(他人を殴るなど)をしたときの賠償金
4.給与(個人事業主として支払うべき従業員への給与。破産法第253条1項5号)
5.罰金(破産法第253条1項7号)
上記以外にも自己破産申し立ての債権者一覧表(債権者名簿)にわざと記載しなかった債権者に対する負債は免除の対象になりません(破産法第253条1項6号)。
また詐術(だまして)による信用取引などがあります。
債務が少額過ぎる場合、返済可能と判断され自己破産が認められない可能性があります。
100万円以下の債務であるような場合が考えられますが、生活保護受給者であるような時には数十万円といった少額であっても自己破産は認められます。
免責不許可事由がある場合でも、債務者において破産手続開始決定にいった経緯、その他一切の事情を考慮して、免責許可の決定をすることが相当であると判断した場合に、免責許可を出すことがあります。
個人の自己破産宣告申立てを大きく分類すると、簡単な手続済む「同時廃止」事件と、裁判所が選任する破産管財人のもと手続が進められる「破産管財」事件に分かれます。
破産管財事件は、破産管財人の費用や面談、調査など時間的にも経済的にも負担が大きい手続です。
免責不許可事由がある場合の自己破産申立ては、管財事件になる可能性が高いと言えます。
もし破産管財人が就いた場合には、面談や調査にしっかりと協力するなど誠実な対応をおこないましょう。
免責決定を出すかどうか、破産管財人の意見をもとに裁判所が判断するため破産管財人への対応には注意が必要です。
そのため、こうした免責不許可に当たる事由がある場合には、一度弁護士に相談して見通しについてアドバイスを得ておくと安心です。
なお、当事務所の依頼者の方で免責不許可事由がある場合でも、裁量免責が出たのは次のケースです。
【裁量免責が受けられた事例】
1.投機(ビットコイン)をおこなっていた(負債形成の一因でもない場合)
2.ショップチャンネルでの大量の購入(買い物依存症であることの診断書あり)
3.取引先との付き合いで競艇(テレボート)をおこなった
4.クレジットカードで購入した商品を廉価処分、換金した(全体の負債に対して軽微なもの)
負債が多く生活が立ち行かない状況にある時、裁判所は基本的に免責を認める方向で手続を進めます。
かなり多くの場合、免責許可がなされますが、稀にその程度が悪質であるなどの場合には免責不許可となることがあります。
ここまで、自己破産できないケースとして①債務超過にないこと、②免責不許可事由があること、③税金などでないことを説明してきました。
これら以外にも、自己破産できない場合として次のものがあります。
法律上、過去に破産や個人再生といった債務整理の救済制度を利用した場合には、決定確定などから7年間は自己破産できないことになっています。
1.申立て前7年以内に破産免責手続を利用して免責の決定が確定した
2.申立て前7年以内に給与所得者等再生手続を利用し再生計画通りに弁済を終了した
ただ、7年以内であっても、負債の原因が1回目の破産の時の借入の理由が異なるなど(1回目は保証債務を負担して破産し、2回目は失業により収入がなくなり借金をしたなど)やむを得ない事情と言えるような場合に、自己破産による裁量免責が認められる例はあります。
(必ず裁量免責されるわけではありません。)
自己破産申立時に、裁判所に手数料などを納めることになります。
申立手数料、予納郵券(連絡用の郵便切手)、官報公告掲載料、破産管財人の費用(引継ぎ予納金。破産管財人が選任される場合)などです。
同時廃止事件の場合は数万円程度、破産管財事件の場合は20万円前後~の費用を原則として一括で支払います。(原則、分割払いはできません。)
法務省の出先機関である「法テラス」による法律扶助制度もありますが、これは弁護士・司法書士への依頼する場合の費用の立替が受けられるに過ぎず、分割で償還(返済)することになります(生活保護受給者は償還を免除されます。)。
そのため、破産管財人への引継ぎ予納金は援助の対象外になるため、親戚による支援を受けるなどして対応する必要があります。
こうした裁判所に納める費用が支払えない場合、裁判所は手続を却下します。
個人事業者や、免責不許可事由がある場合などには、破産管財事件となる可能性があり、予納金も高くなるため、事前にお金を準備しておくことが大切です。
なお、司法書士と弁護士に依頼する違いは、① 司法書士は債務額140万円を超える場合に代理人になれない(弁護士は制限なく活動できる)、②弁護士が代理人の場合、手続を簡素化して進められる場合がある、③ 破産管財事件になる場合、司法書士は面談時の同席対応さえできない(弁護士は可能)、などが挙げられ、弁護士に依頼するメリットは大きいと言えます。
問題なく自己破産できる場合でも、債務整理のための手続として自己破産が最適かどうか検討する必要があります。
破産決定を受けると職業制限・資格制限を受けることがあります。
つまり、一定期間その職に就くことができません。
なお、免責許可決定が確定するなどした場合の「当然復権」と、「申立てによる復権」の2つの方法により復権することで、再びその職業に就くことは可能です。
永久に職業制限が続くわけではありません。
【破産により資格制限を受ける職業例】
警備員、生命保険外交員(募集人)、旅行業の登録、弁護士など
資格制限のある職業に就いている場合、勤務先に伝えて、資格がなくても良い業務への配置転換などを申し出ることが考えられます。
基本的に自己破産したこと自体を理由にして、解雇することはできません。
また資格制限を受ける自営業者の場合で、生活に大きな影響がある時は、自己破産ではなく、民事再生や任意整理など他の方法による債務整理を検討されるのが良いでしょう。
自己破産で手元に残せる財産は、基本的に99万円の預金や生命保険解約返戻金等、差押え禁止財産、破産手続開始決定後に取得した財産です。
これ以外の破産者が所有する財産は処分されお金に変えられ、債権者に対して配当の原資となります。
そのため、自宅などの持ち家は処分することになります。
なお、住宅ローンを組んでいる場合、金融機関が抵当権をつけているため、返済の滞納や破産手続開始決定があった時には、競売手続をとることが多いです。
どうしても持ち家を残したい場合、地方裁判所の個人再生手続を利用することで、持ち家を守ることができます。
住宅ローンは従前の契約通りに返済をおこない、それ以外の借金については5分の1に圧縮し減額した金額(または最低弁済額100万円。住宅ローン以外の借金が1500~3000万円のときは300万円、3000~5000万円のときは負債の10分の1)を原則3年の分割返済をおこないます(やむを得ない理由があるときは5年)。
完済したのち、残る債務の返済義務は免除されます。
ただ、個人再生の利用には、安定した収入があることが前提となります。
持ち家である自宅を手元に残したい場合は、個人再生手続の利用で対応できることを説明しました。
しかし、自宅以外の不動産、動産などは、自己破産手続では基本的に処分します。
ただ、「現金など99万円(破産法34条3項1号等)」「差押禁止財産(生活に欠くことのできない家財道具など)」は、自由財産として手元に残すことができます。
また、上記以外の財産であっても、一定の範囲の財産を自由財産として拡張し手元に残すことができます(自由財産拡張制度)。
例えば、現金、預金、生命保険契約の解約返戻金の合計が99万円以下の場合、自由財産を拡張することで、原則解約処分の生命保険契約も解約することなく契約を継続できる場合もあります(なお、生命保険契約の解約返戻金が99万円を超えるような場合、解約返戻金相当額の一部を債権者へ配当をする等により、生命保険契約の継続が認められることもあります。)。
また、がんに罹患し生命保険の給付金により生活をしているなどの特別の事情があるときは、破産管財人の判断次第ではあるものの、99万円を超えての財産保持が認められる場合もあります。
参照リンク|自己破産で生命保険の解約が必要な場合と、契約を維持するための4つの方法
自己破産手続きにより、債務者本人の生命保険契約の取扱いにちうてどうなるか(解約処分が必要になるのか)などについて解説しています。
自己破産した場合、債権者から連帯保証人に残債務の一括返済を求められます。
ご家族や親族、友人の方が連帯保証人の場合に、迷惑をかけたくないかもしれません。
ただ借入れの時の契約で、自己破産に限らず、任意整理、個人再生などの借金整理の手続や、返済の滞納の事実があると連帯保証人に返済の督促・請求がなされることが一般的です。
そのため、借金をどのように返済するべきかをしっかり考えて、最適な解決方法を取ることが大切です。
参照リンク|自己破産による連帯保証人への影響
自己破産により借入れの際に連帯保証人となった方への影響について詳しく解説しています。
免責不許可の決定が出された場合、当然に借金返済の義務は残ります。
債権者から訴訟を起こされ、差押えなどの強制執行を受ける可能性がありますが、時効消滅期間が経過するのを待つことになります(ただし、日本政策公庫や保証協会が債権者のときは、時効消滅する前に差押等をして時効を完成させないようにしてきます)。
また、免責不許可の場合には、破産決定により受けた資格制限を回復するために復権のための申立をおこなう必要があります。
自己破産の条件を満たせない場合、自己破産以外の債務整理が良い場合や、自己破産したものの免責不許可決定を受けた場合などには次の対処法があります。
自己破産で免責不許可決定があった場合、決定から1週間以内であれば異議申立てができます。
法律上、即時抗告と言います。
ただ、免責不許可は相当の理由があるときにしかなされないもので、実際には即時抗告をしたからと言って決定を覆すことは困難と言えます。
裁判所を通さず、債権者と借金減額の直接交渉をおこなう方法です。
交渉内容は、将来利息のカット、元本の減額、返済回数を増やす(毎月の返済額を減らす)などがあります。
ただ、自己破産のように借金がゼロになる、個人再生のように概ね5分の1(最低返済額100万円)に圧縮できるなど、経済的なインパクトは低いです。
任意整理のメリットは、職業制限・資格制限にかからないこと、当事者が合意できれば返済条件は自由に決められることなどが挙げられます。
他方、デメリットとして債権者が交渉に応じてくれる保証がないことです。
地方裁判所の個人再生手続は、5分の1に減額した借金(最低返済額100万円。住宅ローン以外の借金が1500~3000万円のときは300万円、3000~5000万円のときは負債の10分の1)、3年~5年をかけて分割返済し完済することで、残る負債について免除される法的整理の一つです。
個人再生手続の場合も、個人信用情報機関に事故情報として登録されます。
つまり、ブラックリストに載るため、新たな借り入れ、ローンを組むことは難しいです。
個人再生には「住宅資金特別条項」といって、住宅ローンだけ従前通り返済をおこなうことで、持ち家を守ることができる仕組みがあります。
この点が、個人再生を利用するにあたっての大きなメリットと言えます。
安定した収入がなければ利用が難しい点や、住宅ローンを除く借金総額5000万円までの場合にしか利用できない点がデメリットです。
また、返済計画案に従った返済ができない場合、牽連破産(けんれんはさん)と言って、自動的に破産手続へ移行するリスクがあります。(ただ、個人再生手続の途中で返済困難な事情が発生し、返済金額4分の3以上の返済をおこなっていた場合には、残りの借金の支払義務の免除を受けられる「ハードシップ免責」と呼ばれる制度もあります。)
このように自己破産以外の負債整理の方法は、任意整理、個人再生がありますが、いずれも返済を前提とする方法です。
そもそも返済能力がない場合には利用できません。
借金問題の解決方法は大きく分けて、任意整理、自己破産、個人再生の3つがあります。
ご事情やご希望を踏まえて、適切な選択をすることで早く「生活再建」をおこなうことができます。
たちばな総合法律事務所では、債権者の窓口対応、裁判所書類の作成、提出、裁判所対応、破産管財人との面談同席など申立から終了まで、フルサポートをおこなっています。
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