偏頗弁済とは?定義と正しい知識、やってはいけない返済のリスク
個人破産
2025 . 04.9
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この記事でわかること
たちばな総合法律事務所
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也
大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。
目 次
偏頗弁済(へんぱべんさい)とは、借金の返済が困難になったときに特定の債権者に優先的に返済してしまう行為を指します。
自己破産を申し立てる場合において、破産法で偏頗弁済は禁止されています。
偏波弁済をおこなうと、自己破産手続き、個人再生手続きの中でさまざまな問題が生じます。
本記事では、偏頗弁済の定義や債権者平等原則との関係、具体例や注意点、万が一偏頗弁済をしてしまった場合の対処法などについて解説します。
やってはいけない返済のリスクや正しい知識を身につけることで、債務整理手続きをスムーズに進めるための参考にしてください。
まずは偏頗弁済がどのような理由で問題とされるのか、その背景を押さえておきましょう。
債務整理手続き、とりわけ破産や個人再生においては、すべての債権者を平等に取り扱うことが基本となります(債権者平等の原則)。
特定の債権者にだけ返済を行うと、ほかの債権者との間で不公平が生じるため、法的な手続きの円滑化を妨げる可能性があります。
たとえば、破産手続開始決定がなされると、債務者の財産は「破産財団」として構成され、全ての債権者に対して公平に分配するための原資となります。
そのため、特定の債権者に対してのみ優先的に弁済を行う偏波弁済は、破産財団を減少させ、他の債権者が本来受け取れるはずの配当額を減らすことになることから厳しく制限されています。
偏頗弁済をした事実が明らかになると、債権者平等を侵害する行為をおこなったとみなされるため、破産であれば免責が認められないリスクを伴うこともあります。
偏波弁済は免責決定を認めることができない「免責不許可事由」として定められています。
つまり、多くの債務を抱えた状況で、一部の返済だけを優先する行為は慎重に避けなければなりません。
実際の破産手続きでは、破産管財人や裁判所の調査によって、通帳履歴などの資金移動が確認されます。
嘘をついたり、返済の事実を隠そうとしたりすると、余計に不利になってしまう可能性があるため注意が必要です。
なお、所有財産を故意に隠すような行為は犯罪であり、処罰を受ける可能性があります。
先ほどお伝えした通り、破産手続きでは、債務者の財産や返済能力をすべての債権者に対して公平に配分することが求められています。
この考え方を「債権者平等原則」と呼び、裁判所や破産管財人は原則として全ての債権者を同列に扱います。
もし特定の債権者だけを優遇して返済を行うと、他の債権者からすれば本来受け取れるはずの配当額が減る可能性が出てきます。
これが偏頗弁済の問題点であり、法律上は否認や免責不許可などの制裁を受ける可能性があり、のちのち自己破産手続き自体に大きな影響を与える可能性があります。
偏頗弁済にあたる行為は、破産法で要件が定められています。
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
1.破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。
ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合
支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合
破産手続開始の申立てがあったこと。
2.破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの。
ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
代表的な偏頗弁済のパターンとして、次のような具体例が挙げられます。
具体的なケースを把握しておくことで、自分の行為が偏頗弁済に該当するかどうかを確認できます。
自分の返済行為が偏波弁済行為に当たるかどうか不安なときは独断で返済を続けず、専門家への相談のうえアドバイスを受けることで、被害を最小限に抑えることができます。
債務者本人が債務整理をおこなうことで、連帯保証人、保証人に残る借金の一括請求を受ける可能性があります。
特に、親族や近しい友人に保証人などをお願いしている場合、迷惑をかけたくないという思いから保証人付きの借入れについて優先的に返済してしまいがちです。
しかし、返済不能の状態にありながら、特定の債権者にだけ返済する行為は偏波弁済行為となります。
親族や友人へ返す気持ちは人情として理解できますが、ご自身の手続きで支障が生じることもあるため絶対におこなわないようにしましょう。
参考記事 「自己破産による連帯保証人への影響」
債務者本人が自己破産をした場合の、連帯保証人にどのような影響があるのか、保証人との違いなどについて紹介しています。
スマートフォン・携帯電話端末の分割代金やキャリア決済は、日常生活でも頻繁に利用するため、支払いを滞らせたくないと考える方も多いでしょう。
ただし、自己破産手続きにおいて、これらの支払いを優先しておこなった場合、偏頗弁済と見なされるおそれがあります。
スマホの利用は確かに重要ですが、特定の返済だけを優先する行為は、他の債権者との公平性を損なう原因になります。
期日を迎えた通常の支払いであったとしても、支払不能状態であるなら専門家に相談したうえで対応を検討すべきです。
実際に、破産申立後にキャリア決済の内容について、破産管財人や裁判所から事情を追及されることがあるため、注意が必要です。
車がないと生活に支障が出るため、他の借金を差し置いて車のローンだけでも完済してしまおうと考える方もいます。
確かに、車は通勤や家族の送り迎えなどに必要ですが、借金返済が難しい段階でローンをまとめて支払うことは偏頗弁済のリスクが高まる行為です。
結果として、免責不許可や否認権の行使に発展しかねません。
早いうちに弁護士へ相談し、公平な手続きの中で最適な解決策を探ようにしましょう。
すでに滞納した家賃をまとめて支払うと、偏頗弁済の疑いが生じます。
ただ、滞納を解消しない限り、今後その物件に住み続けることが難しくなることが考えられるため、家賃滞納の状況を解消したい、と思うのは自然なことでしょう。
偏頗弁済を回避し、家賃を解消する方法としては、同居していない家族に支払ってもらうことが解消方法の一つとして考えられます。
もしオーナーや不動産管理会社と上手く交渉すれば、破産や個人再生であっても住み続けられるケースもありますが、事前に家賃だけを清算してしまうと手続き上のトラブルにつながることも考えられます。
弁護士に相談しながら、適切な対応を取ることが大切です。
弁護士に債務整理を依頼した場合、各債権者に対して代理人となった旨の受任通知を発送することが一般的です。
この受任通知発送時点において、「返済不能(あるいは困難)」な状態にあると理解されるのが通常です。
そのため、受任通知後にクレジットカードを利用する行為は、返済不能の状態にあるにも関わらず、新たに負債を増やす行為です。
また、クレジットカード会社に対する返済は口座引き落としによる方法が多く、利用による特定債権者にのみする返済は偏波行為となります。
破産法第162条第1項第2号は、否認権の対象となる行為として、「破産者が支払の停止(破産手続開始の申立てがあった場合にあっては、その申立て)があった後、破産財団に属する財産を無償で譲り渡す行為または債務を無償で免除する行為」を規定しています。
ここでいう「無償」には、法律上の義務がないのにという意味合いが含まれます。
担保提供の約束がないのに抵当権を設定することは、まさにこの「無償で」担保を提供する行為に該当するため、偏波弁済に当たるので注意が必要です。
自己破産で返済期限が未到来の返済を行うことは、原則として偏頗弁済行為に当たります。
一方で、支払う内容によっては偏頗弁済に当たらない場合があります。
偏頗弁済に当たるかどうかは、返済を行った時期やその性質によって異なります。
偏頗弁済の範囲は法律や裁判所の見解によって左右されることが多く、個別事情の検討が必要です。
疑問があれば自己判断に頼らず、速やかに専門家へ相談することが大事です。
例えば、税金や社会保険料など国家に対する義務の支払いは、原則として偏波弁済にはあたりません。
破産法においても、租税等の請求権(国税徴収法または国税徴収の例によって徴収することのできる請求権、地方税法または地方税の例によって徴収することのできる請求権およびこれらの請求権に係る延滞金、利子税または延滞金の請求権)は、非免責債権(破産法第253条第1項第1号)と定められており、自己破産しても免除されません。
生活を維持するために必要な出費、たとえば当月分の家賃や電気・ガス・水道といった光熱費は、破産・個人再生手続きにおいても比較的正当性が認められやすい生活費用です。
あくまで通常の生活費に相当する範囲内であれば、偏頗弁済にも該当しません。
ただし、高額な支払いや、明らかに生活必需品とは言えないものの購入は該当する可能性があります。
基本的に、生活費として認められているのは今後の生活維持に必要な支払いを想定しているためです。
不安に思う場合は、手続きを依頼している弁護士や専門家に確認するのが良いでしょう。
もし偏頗弁済をしてしまった場合、次のようなリスクが生じる可能性があります。
破産手続きにおいては、免責が認められれば借金の支払い義務が法的に免除されます。
しかし、偏頗弁済が発覚すると、借金を免れようとして一部の債権者にだけ便宜を図ったと判断されるケースがあります。
もし免責不許可の判定を受けると、破産手続き自体は終了しても借金が残り続け、返済義務がなくなるわけではなくなってしまいます。
これは債務者にとって大きな痛手となります。
また、一度免責が許可されても後から偏頗弁済が見つかった場合は、取り消しが行われる場合もあります。
偏頗弁済が行われたと疑われると、破産管財人は「否認権」を行使して、その返済を取り消すことができます。
これにより、優先的に資金を回収した債権者、あるいは受け取った親族や知人は、そのお金を破産財団に戻さなければならない可能性があります。
否認の手続きは、返済を受け取った当事者にとっても大きな負担です。相手からすれば、既に受け取った返済を再び手放すことになるため、トラブルが深刻化する危険性があります。
否認権の行使の判断は破産管財人の裁量に左右されますが、破産手続きの正当性を守るためには避けて通れない手段でもあります。
また、否認権行使は相手方に対しておこなわれます。
そのため、偏波弁済をおこなった債権者に対して支払った金員の返還を求めることになります。
相手が返還を拒否した場合に破産管財人は、訴訟などを申し立てるため、解決に時間がかかると、それだけ破産手続きが終了するまで時間がかかることになります。
結局は偏頗弁済をしないように初期段階で注意しておくことが最善策です。
個人再生では、清算価値が増えると再生計画での返済額も増える場合があります。
個人再生手続きによる返済額は、次の基準で減額した債務額か、保有している財産の価値(清算価値)のいずれかの高い方となります。
債務額の合計(住宅ローンを除く) 最低弁済額
100万円以下 全額
100万円超~500万円以下 100万円
500万円超~1500万円以下 債務額の5分の1
1500万円超~3000万円以下 300万円
3000万円超~5000万円以下 債務額の10分の1
偏頗弁済によって財産が減少していたと認定されれば、その分を清算価値に上乗せして算定されます。
そのため、より多くの金額を計画に組み込まなければならないケースも起こりえます。
偏頗弁済として問題になる期間は、支払不能になってから手続きが完了するまでの間です。
支払不能状態とは、債務者が通常の方法で借金を返していくことが難しいと認められる時点を指します。典型例は、弁護士・司法書士による介入通知(受任通知)時以降の状態を指すことが多いです。
この状態に入ってから破産・個人再生の手続きが始まるまでに行われた特定の返済は、偏頗弁済とされることが多いです。
支払不能状態とは、もはや通常の収入で返済を続けることが著しく困難または不可能になった時期をいいます。
家計簿や通帳の残高状況、収入の見込みなどを総合的に判断されるため、明確な線引きが難しい場合もあります。
この支払い不能状態に至ってから手続開始を申立てるまでの間に、親族や特定の金融機関だけに返済した事実があると、後々問題視されるリスクが高いです。
支払い能力が乏しいにもかかわらず、先に特定の返済だけを済ませてしまうと不公平になり、破産管財人や裁判所が厳しく対処せざるを得ないという裏面があります。
自己破産では免責許可決定、個人再生ではや再生認可決定までの間にする、特定の債権者のみに対する返済は、偏波弁済行為に当たる可能性があります。
なお、自己破産における破産手続開始決定後の収入は自由財産となります。
開始決定後の財産は自由に処分や利用をおこなうことができます。
偏頗弁済を避けるためにはいくつかのポイントを意識することが大切です。
借金問題が深刻化したと感じたら、まずは専門家である弁護士や司法書士に相談を検討しましょう。
法律の専門家は、債権者との交渉や破産・個人再生の手続きに精通しており、偏頗弁済となる行為を事前に防ぐためのアドバイスを受けることが可能です。
早期の相談によって、不要な返済を回避したり、受任通知のタイミングを調整したりといった具体的な対策が打てます。
問題が大きくなる前に動けば、結果的にトラブルを最小限に抑えることができます。
当事務所でも無料相談をおこなっておりますので、お気軽にお問い合わせください。
親族や友人が代わりに返済してくれる「第三者弁済」は、状況によっては有効な方法となり得ます。
ただし、第三者弁済のつもりでおこなった行為が偏頗弁済としてみなされるリスクもあります。
そのため、第三者弁済をお願いする方や、第三者弁済の方法について検討が必要です。
例えば、家計を同じくする家族の方から第三者弁済をおこなうと、債務者本人から支払いがおこなわれているのではないかと破産管財人に疑念を抱かれかねません。
また、第三者から直接、債権者に対して支払われるようにしましょう。
第三者からの資金援助を受けて、債務者本人が支払いをおこなうと偏波弁済と同じ行為になってしまいます。
なお、第三者弁済をおこなった方は、従来の債権者に代わって、新たな債権者となるため、可能であれば債権放棄をお願いすることも検討が必要です。
不安な方は、事前に専門家から手続きの正しい指南を受けておくと、余計なトラブルを避けられるでしょう。
万が一偏頗弁済とみなされる返済をしてしまった場合は、次のように対処しましょう。
偏頗弁済が特に問題となるのは、自己破産や個人再生手続きをとる場合です。
すでに偏頗弁済の疑いがある返済を行ってしまった場合も、あきらめる必要はありません。重要なのは事実を隠さず、正直に弁護士に相談して適切な対応を取ることです。
状況によっては、他の手段での債務整理を検討する余地も残されているため、専門家の助言が役立ちます。
弁護士は依頼人の利益を最優先に考え、最善策を一緒になって探してくれるため、情報を共有しなければ十分なアドバイス受けることができません。
偏頗弁済が大きな問題となる場合、必ずしも破産に固執せず、任意整理や個人再生の道を検討することも重要です。
偏頗弁済の内容によっては、個人再生のほうがまだ柔軟に対応できる場合があるため、複数の選択肢を見比べることが賢明です。
任意整理では手続きが裁判所を介さないため、偏頗弁済が手続きに与える影響は低いと言えます。
いずれの方法をとる場合でも、金融機関や債権者との交渉の根拠をしっかりと用意することが大切です。
参考記事 「債務整理のデメリットを徹底解説:知っておきたい影響と対策」
自己破産、個人再生、任意整理、特別調停といった各債務整理の方法とそのデメリットについて説明しています。
偏頗弁済は債務整理手続きにおいて重大な影響を及ぼす可能性のある行為であり、事前の正しい知識の理解や専門家への相談が重要です。
偏頗弁済は、特定の債権者だけを優先してしまうことで、破産や個人再生手続きにおいて不許可事由や返済額の増加など、多大な不利益をもたらす可能性があります。
借金問題を解決するために債務整理を検討しているのであれば、まずは特定の返済を先行しないように注意し、早めに専門家へ相談する姿勢が望ましいでしょう。
一方で、税金などの公的支払いや当月分の生活費は、偏頗弁済とはみなされないケースもあるため、しっかりと区別して手続きを進めることが肝心です。
やむを得ず偏頗弁済と疑われる対応をしてしまった場合でも、正直に弁護士へ伝えれば解決策を見出せる可能性があります。
借金問題は人生の大きな負担となりますが、正しい法律知識と適切なサポートがあれば、再スタートへ向けた道筋は必ず開けます。
偏頗弁済を避けつつ、最善の手続きを選んでいきましょう。
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