会社の借金と連帯保証人のすべて~経営者が負うリスクと対策~
法人破産
2025 . 10.8
法人破産
2025 . 10.8
目 次
会社経営において、資金調達のための融資は事業拡大や資金繰りを支える生命線です。
しかし、その際に経営者個人が連帯保証人となることは、個人資産に深刻な影響を及ぼす重大なリスクを伴います。
融資が必要だからといって安易に連帯保証契約を結ぶと、万が一会社の経営が悪化した場合、経営者個人に直接的な支払い義務が生じます。
この責任は、時に自宅や預貯金といった個人の全財産、さらには家族の生活までをも脅かす可能性があります。
このような事態を避けるためには、契約前に連帯保証人の法的な地位とリスクを正確に理解し、万全の対策を講じておくことが不可欠です。
本記事では、連帯保証人の基礎知識から、その責任範囲、具体的なリスク回避策、そして万が一の事態に陥った際の対処法まで、中小企業の経営者様が知っておくべき全てを網羅的に解説します。
会社の未来を守るため、そして何よりご自身とご家族の未来を守るために、ぜひ本記事をお役立てください。
まず、連帯保証制度の基本的な仕組みと、「通常の保証人」との決定的な違いを正確に理解しましょう。
この違いを知らないまま契約することは、非常に危険です。
通常の保証人と連帯保証人の最も大きな違いは、「債権者(金融機関)からの請求を拒める権利」の有無にあります。
具体的には、通常の保証人には以下の3つの権利が認められていますが、連帯保証人にはいずれも認められていません(民法第454条)。
催告の抗弁権(民法第452条)
「まずは主債務者(会社)に請求してください」と主張する権利。
検索の抗弁権(民法第453条)
「主債務者に返済できる資産(不動産など)があるのだから、先にそちらを差し押さえてください」と主張する権利。
分別の利益(民法第446条、第456条)
保証人が複数いる場合、それぞれの保証人は借金の総額を保証人の人数で割った金額についてのみ責任を負うという考え方。
例えば、借金3,000万円で保証人が3人いれば、1人あたりの責任は原則1,000万円となります。
連帯保証人にはこれらの権利が一切ないため、債権者は会社の返済能力の有無にかかわらず、いきなり連帯保証人に対して「借金の全額」を一括で請求することができます。
連帯保証契約がもたらす最大のリスクは、主債務者(会社)の返済が滞った時点で、連帯保証人が即座に借金の元本、利息、遅延損害金の全額について返済義務を負う点にあります。
この請求に応じられない場合、裁判手続きを経て、最終的には連帯保証人個人の財産が強制的に差し押さえられます。対象となる資産は、自宅や土地といった不動産、預貯金、給与、有価証券、生命保険など、ほぼ全ての個人資産に及びます。これにより、生活の基盤が一瞬にして崩壊する危険性があるのです。
また、会社の破産手続きと連帯保証人の返済義務は、法的には全く別の問題として扱われます。
つまり、会社が破産して法人格が消滅したとしても、連帯保証人の支払い義務は消えません。
そのため、会社の破産と同時に、連帯保証人である経営者自身も自己破産などの債務整理を検討せざるを得なくなるケースが非常に多いのが実情です。
なぜ金融機関は、会社への融資に際して経営者個人の連帯保証を求めるのでしょうか。
その背景には、金融機関側のリスク管理の考え方があります。
中小企業の場合、大企業に比べて信用力や担保となる資産が十分でないことが多く、金融機関にとって貸し倒れのリスクが高いと判断されがちです。
もし返済不能に陥った際、会社の財産だけでは融資額を全額回収できない可能性が高いと考えています。
そこで金融機関は、経営者個人の資産も返済の原資として確保することで、融資の回収リスクを軽減しようとします。
これが、経営者個人を連帯保証人として求める最大の理由です。
経営者にとっては、会社の運転資金や設備投資資金を得るために、この条件を飲まざるを得ないという厳しい現実があります。
代表者保証(経営者保証)は、中小企業の融資において、法人代表者が会社の借入金を個人的に保証する制度です。
金融機関は、会社の事業内容や財務状況に加え、経営者個人の資産や信用力も審査対象とすることで、貸し倒れリスクを低減できると考えています。
この慣行は、経営への規律付けや情報開示の促進という側面も指摘されてきましたが、一方で、経営者が事業に失敗した際に過酷な結果を招き、思い切った事業展開や円滑な事業承継、早期の事業再生を妨げる要因ともなっていました。
しかし、この慣行が起業や事業承継の妨げになっているとの批判も高まり、近年では国を挙げてこの慣行を見直す動きが加速しています。
その一つとして、2014年に全国銀行協会と日本商工会議所が策定した、「経営者保証に関するガイドライン」があります。
これは、安易に経営者保証を求めることを抑制し、企業の事業性そのものを適切に評価して融資を行うことを促す金融機関向けの自主的なルールとなっています。
代表者個人が連帯保証人になることで、法的には別人格であるはずの会社と個人の財産が、実質的に一体として扱われることになります。
本来、株式会社などの法人格を取得する目的の一つは、事業上のリスクを会社の財産の範囲に限定し、経営者個人の資産から切り離すこと(有限責任の原則)にあります。
しかし、代表者保証はこの有限責任の原則を実質的に無効化してしまいます。
法人が返済不能に陥れば、その責任は直ちに個人に及び、個人の全財産をもって返済する義務(無限責任)を負うことになります。
この構造を理解し、融資を受ける際には安易に契約するのではなく、個人保証の範囲を限定する方法や、将来的に保証を解除する可能性について金融機関と交渉することが重要です。
連帯保証人になることのリスクとデメリットを、より具体的に把握しておきましょう。
会社の経営が順調な時は意識しにくいですが、ひとたび経営環境が悪化すると、これらのリスクは突如として現実のものとなります。
連帯保証人は主債務者と全く同等の返済義務を負います。会社の業績が悪化し、返済が滞れば、その請求は直接個人のもとへ届きます。
資産の差し押さえ
自宅や預貯金だけでなく、家族のためにかけていた学資保険や個人年金保険なども差し押さえの対象となる可能性があります。
家族への影響
自宅を失えば、家族は住む場所を失います。また、家計が圧迫されることで、子供の進学を諦めざるを得なくなるなど、家族の人生設計にまで深刻な影響が及びます。
信用情報への登録
返済が遅延すれば、信用情報機関(いわゆるブラックリスト)に事故情報が登録され、新たなローンを組んだり、クレジットカードを作成したりすることが極めて困難になります。
その影響は、連帯保証人であるご自身だけにとどまりません。
例えば、自宅が夫婦共有名義であっても、ご自身の持分は差し押さえの対象となり、最悪の場合、競売にかけられて家族が住む場所を失う可能性もあります。
また、配偶者や親族が保証人になっていなくても、経営者個人の経済的破綻は、家族全体の生活水準の低下や精神的苦痛に直結します。
多額の負債を抱えれば、お子様の教育資金や家族の将来設計も根本から見直さざるを得なくなります。
会社が裁判所に破産手続の申立てをおこなうと、金融機関は直ちに連帯保証人である経営者個人に対して、残債務の一括返済を求めてきます。
会社の負債が数千万円、数億円に上る場合、これを個人で返済することは事実上不可能です。
その結果、会社の破産と同時に、経営者自身も自己破産や個人再生といった債務整理手続きを検討せざるを得ないケースがほとんどです。
法人破産と個人破産を同時に検討・申立てすることは、手続きを効率化し、精神的・時間的負担を軽減する上で合理的です。
連帯保証人である経営者が死亡した場合、その連帯保証人としての地位と債務は、相続の対象となります。
これは、相続人である家族を巻き込む非常に深刻な問題です。
相続人は、亡くなった方(被相続人)の預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や連帯保証債務といったマイナスの財産もすべて引き継ぐのが原則です。
もし会社が多額の借金を抱えていれば、相続人が突然、その返済義務を負うことになりかねません。
遺産を相続する際は、プラスの財産とマイナスの財産をすべて調査し、全体として相続すべきか判断する必要があります。
連帯保証債務は、目に見える資産ではないため見落とされがちですが、相続財産に含まれる極めて重要なマイナスの財産です。
もしマイナスの財産がプラスの財産を上回る、あるいは連帯保証債務のリスクが大きすぎると判断した場合は、家庭裁判所で以下の手続きを行うことで、債務を引き継がない選択が可能です。
相続放棄
プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない方法。
限定承認
相続するプラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの財産を返済する方法。
但し、手続きに時間がかかり、費用負担も大きいためほとんど利用されていません。
これらの手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に申し立てる必要があります。
期間が短いため、連帯保証人であった方が亡くなった場合は、すぐに専門家である弁護士に相談し、財産調査と手続きの準備を進めることが重要です。
事業承継などで会社の代表者が交代した場合、自動的に新代表者に連帯保証人の地位が移行するわけではありません。
保証契約は会社と金融機関、旧代表者個人の三者間契約のため、保証人から外れるための解除には金融機関の同意が必須です。
経営者の個人保証に過度に依存する融資慣行の弊害をなくすため、国や金融機関は様々な取り組みを進めています。
これらの制度を正しく理解し活用することが、連帯保証人の負担を軽減する鍵となります。
その中心となるのが「経営者保証に関するガイドライン」です。
これは、経営者保証のあり方について、金融機関と経営者の間で共有されるべきルールを定めたものです。
「経営者保証に関するガイドライン」は、法的拘束力はありませんが、金融機関が尊重すべき指針として広く浸透しています。
このガイドラインの最大のポイントは、経営者保証を求めない融資を検討することを金融機関に促している点です。
具体的には、以下の3つの要件を総合的に満たす場合、金融機関は経営者保証を求めないことや、保証を解除することを検討すべきとされています。
法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること
法人と経営者個人の資産や経理が明確に分離されていること。
財務基盤が強化されており、法人のみの資産・収益力で返済が可能であること
財務状況が良好で、自己資本が充実していること。
金融機関に対し、財務情報などが適時適切に開示されていること
金融機関の求めに応じ、決算書や試算表などの会計情報を正確かつ迅速に開示すること。
これらの条件をクリアし、事業の将来性をアピールすることで、保証なしでの資金調達の道が開ける可能性があります。
ガイドラインの理念を具体化した支援策も存在します。
その代表例が、信用保証協会が提供する「経営者保証免除特例制度」です。
これは、一定の財務要件を満たす中小企業が信用保証付き融資を利用する際に、経営者保証を不要とする制度です。
他にも、日本政策金融公公庫の一部の融資制度では、原則として経営者保証を求めない運用が行われています。
これらの制度を利用できるかどうかは、会社の状況によって異なります。
まずは取引のある金融機関や、お近くの信用保証協会、商工会議所などに相談してみることをお勧めします。
万が一、会社の経営が立ち行かなくなり破産を選択せざるを得なくなった場合、連帯保証人である経営者はどのような手続きを踏むことになるのでしょうか。
その基本的な流れを解説します。
会社が裁判所に破産を申し立てると、通常、以下の流れで手続きが進みます。
弁護士への相談・依頼
まず弁護士に相談し、破産申立てを依頼します。
受任通知の送付
弁護士が債権者全員に受任通知を送付します。これにより、債権者からの直接の取り立てが停止します。
破産手続開始の申立
裁判所に必要書類を提出し、破産を申し立てます。
破産手続開始決定・破産管財人の選任
裁判所が開始決定を出し、会社の財産を管理・換価(現金化)する破産管財人(弁護士)を選任します。
財産の換価・配当
破産管財人が会社の財産を売却し、債権者に公平に配当します。
破産手続の終結
配当が終了すると、手続きは終結し、会社の法人格は消滅します。
債権者からの請求
配当で完済できなかった債務について、債権者は連帯保証人である経営者個人に請求を行います。
この過程で、債権者は会社の資産から回収できなかった不足分について、連帯保証人個人に請求してきます。
保証人として一部でも返済した場合、その分を会社に請求する権利(求償権)は理論上ありますが、破産する会社に支払い能力はないため、実質的に回収は不可能です。
法人の破産に伴い、連帯保証人として多額の負債を背負った場合、個人破産や個人再生といった債務整理手続きを早期に検討することには、多くのメリットがあります。
個人破産(自己破産)
裁判所の免責許可決定を得ることで、税金など一部を除くほとんどの借金の支払い義務が免除されます。
経済的な再出発を図るための最終手段です。
ただし、一定以上の価値のある財産(自宅など)は手放す必要があります。
個人再生
裁判所の認可のもと、大幅に減額された借金を原則3~5年で分割返済していく手続きです。
住宅ローン特則を利用すれば、自宅を手元に残したまま他の借金を整理できる可能性があります。
法人破産と個人の債務整理を同じ弁護士に依頼し、同時に進めることで、手続きがスムーズに進み、費用や時間の節約に繋がります。
何より、債権者からの督促から解放され、精神的な負担を大きく軽減できることが、再起を図る上で非常に大きなメリットとなります。
会社の借金や連帯保証人の問題は、極めて専門的かつ複雑な法律問題です。
一人で抱え込まず、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが、最善の解決への第一歩です。
弁護士に相談するメリット
最適な解決策の提示
会社の経営状況、負債総額、個人の資産状況などを総合的に判断し、法人破産、民事再生、個人の債務整理など、取りうる選択肢の中から最適な対処法を提案してくれます。
金融機関との交渉代理
経営者に代わって金融機関と交渉し、保証契約の解除や返済計画の見直しなどを有利に進められる可能性があります。
精神的負担の軽減
依頼後は弁護士が窓口となるため、債権者からの厳しい取り立てから解放され、精神的な平穏を取り戻すことができます。
相談が早ければ早いほど、選択肢は多く残されています。経営が悪化してからではなく、「連帯保証契約の内容に不安がある」「今後の資金繰りが心配だ」といった段階でも、遠慮なく法律の専門家を頼ってください。
連帯保証人という制度は、会社の資金調達を円滑にする一方で、経営者個人に計り知れないリスクを負わせるものです。
正しい知識なくして、その重責を乗り越えることはできません。
会社の借入金に対する連帯保証契約は、一度結ぶと経営者個人の財産、信用、そして家族の生活まで左右する重大な決断です。
万が一、経営が立ち行かなくなり返済が困難になったとしても、決して一人で抱え込まないでください。
早期に弁護士などの専門家に相談し、法人と個人にとって最善の再建策を講じることが、厳しい状況を乗り越え、新たな一歩を踏み出すための最も確実な防御策となるのです。
たちばな総合法律事務所では、法人・個人の借金問題に関する無料相談を受け付けています。
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税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也
大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。
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