「飲食業」の廃業・破産手続きの注意点~法人破産を扱う弁護士が解説する経営者コラム~
法人破産
2020 . 09.11
法人破産
2020 . 09.11
たちばな総合法律事務所
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也
大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。
目 次
飲食業の経営者の方に知っておいていただきたい廃業・破産手続きの注意点について解説しています。
2020年7月現在、新型コロナウイルス感染症による影響から飲食店を取り巻く環境は厳しく、「酒屋・ビヤホール」「中華・東洋料理店」「日本料理店」の3業態では過去最多となる倒産発生ペースで推移しています。
依然、新型コロナウイルス感染症の拡大は続いており、在宅ワーク延長など客足は遠のいたままで、テイクアウトへの対応の負担など、収益を取り戻すことが難しい状況は続きそうです。
2020年現在、新型コロナウイルス感染症により売上減少などの影響を受けた飲食店が利用できる「助成金」「給付金」や「融資」は次のとおりです。
なお、これらの制度は日々変更などがあるため、最新情報は給付等を行う各手続窓口の情報を参照してください。
また、下記に挙げている以外の「融資」関連の支援は、取引金融機関、商工中金、日本政策金融公庫などが窓口となる特別貸付などがありますので、確認してみてください。
※【ご留意ください】
2020年6月時点での情報に基づいて掲載しております。
最新情報は各窓口にお問合せ・ご確認いただけますようお願い致します。
参照情報
「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」
[ 助成金・給付金等 ]
☑ 持続化給付金
条 件
売上が前年同月比で50%以上減
概 要
前年総売上(事業収入)-(前年同月比▲50%月の売上×12ヶ月)
法人は200万円以内
個人事業者等は100万円以内を支給
窓 口
中小企業 金融・給付金相談窓口
☑ 雇用調整助成金(特例措置)
条 件
売上高が1か月5%以上減の事業者
概 要
休業実施の場合の休業手当や教育訓練を
実施した場合の賃金相当額の100%を助成
上限15,000円
窓 口
・雇用調整助成金コールセンター
・雇用助成室
・ハローワーク
☑ 新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金
条 件
新型コロナウイルス感染症により休校等となった小学生等の子どもや
関連して小学校等を休む必要がある子どもの世話をした労働者に有給を取得させた
概 要
有給休暇を取得した対象労働者に支払った事業者
賃金相当額×10/10
(1日当たりの上限額15,000円)
窓 口
学校等休業助成金・支援金、雇用調整助成金コールセンター
☑ 新型コロナウイルス感染症対策協力金
条 件
緊急事態措置期間中、休業要請に応じて協力した事業者
概 要
1事業所あたり、50万円(各自治体により内容は異なる)
窓 口
都道府県の各自治体
☑ 家賃支援給付金
条 件
売上が前年同月比で50%以上減少
連続する3か月が前年同月比で30%以上減少
概 要
申請時の直近の支払賃料(月額)に基づいて算出される給付額(月額)を基に、
6カ月分の給付額に相当する額を支給 窓 口:家賃支援給付金コールセンター
[ 融資関連 ]
☑ 新型コロナ特例リスケジュール
条 件
既往債務の支払いが困難な事業者
概 要
中小企業再生支援協議会が、主要債務者の支援姿勢を確認して、1年間の元金返済猶予を要請。その後計画のサポート等あり。
窓 口
都道府県中小企業再生支援協議会
☑ 小規模企業共済制度の特例緊急経営安定貸付等
条 件
最近1か月の売上高が前年又は前々年の同期と比較して
5%以上減している小規模企業共済の貸付資格を有する契約者
概 要
契約者が納付した掛金の総額の7~9割の範囲内で、2,000万円が貸付上限
償還期間
貸付金額500万円以下の場合4年
貸付金額505万円以上の場合は6年(据え置き期間は1年)
窓 口
中小企業基盤整備機構共済相談室
☑ 契約者貸付制度
条 件
生命保険料が払えない契約者
概 要
契約の解約返戻金の9割を限度に貸付。
特例措置として9月末まで無利息(各保険会社によって対応が異なる)
窓 口
契約先の各保険会社
これらの融資、返済猶予などを受けながら、事業を継続するために新規販路の開拓や業態変更などの模索を行うことになるかと思います。
しかしながら、飲食店の主な破産原因のひとつである「販売不振」が続くのであれば、負債の増加を止めるための手続をとることも選択肢にするのが良いでしょう。
なお、飲食店に特有の「負債」があり、これらの負担、借入れが6か月先においても続くことが見込まれるのであれば、一度弁護士に相談することも検討してみてはいかがでしょうか。
飲食店にとって大きな負担(負債)として、事業用店舗の毎月の賃料や、廃業・移転時の原状回復費用があげられます。
一般的には、退去する場合には6か月前予告を条件としていることが多く、手元にキャッシュが残っていないと、退去費用もままならない、ということが起こります。
敷金などの保証金を預けている場合でも、原状回復費用の追加費用の発生や、撤去・移転の費用がさらにかかることがあります。
最後まで営業できないか頑張られる事業者の方は多いのですが、個人事業者に近い飲食店経営者の方においては、個人の生活もあるため「資金に余裕があるうちに」、どういった廃業手続の選択肢があるのかを弁護士に相談されるのが望ましいでしょう。
飲食店では、提供メニューの原材料の仕入れにかかる費用(買掛金)も事業継続にあたっての悩ましい問題の一つです。
コロナ禍における客足、売上がいつ、どの程度まで回復するのか予測することが難しい場合、仕入れがそのまま負債になるため厳しい状況に陥る可能性があります。
冷蔵庫、食洗器などの厨房施設は、開業時の初期投資を抑えるためにリース契約を締結されていることが多いと思われます。
事業継続を検討する場合には、リース料金は毎月の負担となりますが、事業継続を断念される場合には、リース物件を返却することで毎月の返済の負担を減らすことが可能です。
たとえば、新型コロナウイルスに関連して従業員を休業させる場合において「休業手当」など事業者が負担するのかどうかは、従業員が新型コロナウイルスに① 感染している場合、② 感染しておらず休業させるケースに大きく分けることができます。
① 新型コロナウイルスに感染している場合には、休業手当を支払う必要はありませんが、被用者保険に加入しているのであれば、傷病手当金が支給される可能性があります。
② 従業員が感染していないものの、休業させる場合には、個別の事情により休業手当の支払いが必要となることがあります。
例えば、自宅勤務などの他の業務に従事させることで休業を回避できた可能性があるのであれば、使用者の都合による休業となるため、休業手当の支払いが必要となります。
このような場合には、先の雇用調整助成金などの利用をしたうえで、負担を減らすことを検討するのが良いでしょう。
なお、当事務所に相談にお越しになられる経営者の方で「従業員の生活を考えると廃業が難しい」と言われることがあります。
未払い給料などは、勤務先の飲食店が倒産したとしても、独立行政法人労働者健康安全機構による「未払賃金立替制度」の利用により一部立替による支払いを受けることができ、飲食店の破産手続による財産換価に基づく配当では、優先的に弁済を受けることができます。
そのため、従業員のことを考えて廃業をためらうのであれば、むしろ資金に余裕があるうちに弁護士に相談されるのが良いでしょう。
新型コロナウイルス感染症の企業における対応について、厚生労働省のHPでQA形式にて掲載されています。
参照リンク
飲食店の廃業において、特に問題となりやすい作業は、① 事業用店舗の明け渡し、② 買掛け先との交渉があげられます。
①について、デリバリー専門店にせよ実店舗をもつ場合においても、事業用店舗の明け渡しが主な作業のひとつとなります。
この作業における関係者は、A) 事業用店舗のオーナー、B)リース会社、C) 中古什器買取業者、D) 明渡・原状回復業者、E)従業員、F)買掛先となります。
A)事業用店舗オーナーにおいては、原状回復についての工事業者の手配、工事の必要範囲、保証金の返還、明渡時の内容確認をおこないます。
B)リース会社においては、リース物件の返却、滞納リース料がある場合の処理などについて打合せが必要となります。
C)中古什器買取業者は、所有物件の売却のため複数社の見積もりの為の内覧日の設定や、撤去などの手配をおこないます。
D)明渡・原状回復業者は、事業用店舗のオーナー指定の業者による作業の場合と、指定がない場合における業者の手配をおこないます。
ご自身で明渡・原状回復業者を手配される場合には、こちらも複数社の見積もりをとり、料金、作業の範囲などを確認したうえで依頼されるのが良いでしょう。
E)従業員においては、店舗内における私物などの引き取りを連絡する必要があります。
F)買掛け先は、廃業直前に納品された物品について問題となることがあります。「取り込み詐欺ではないか」とトラブルになることがあり、このようなことが想定される場合には弁護士に相談されると良いでしょう。
なお、これらの関係者とのやりとりについて、弁護士に依頼された場合には一括して、窓口となり代行を任せることができる場合もありますので、経営者の方の精神的・時間的な負担を減らすことができます。
法人の破産手続は、所在地を管轄する地方裁判所に対して手続をとることになります。
資産を換価し、債権者に対して配当をおこない、法人を消滅させる手続です。これにより法人としての負債の返済が必要なくなります。
流れとしては大きく、① 裁判所への申立て② 破産決定・破産管財人の選任(法人の財産を管理者が裁判所から選任され、管財人が以降の手続を進めます)、③ 債権者集会など、④ 債権者への配当、⑤ 終了となります。
法人格(株式会社など)を持たない個人経営の飲食店の方は「個人破産(自己破産手続)」による手続を行なうことになります。
法人における民事再生手続は、借入れの返済期間の延長や、その借入れを一部減額して返済を行うための手続です。
そのため、資金繰りが厳しく運転資金さえ危うい場合には向いていません。この手続も、地方裁判所に対して手続を行う必要があり、裁判所へ納める費用(予納金)も300万円以上を要するなど高額であることも、手続を行ううえで支障となる可能性があります。
民事再生手続の流れは、① 裁判所への申立て(予納金をこのとき納付)、② 保全処分命令・監督委員の選任、③ 債権者に対しての説明会開催、④ 再建の可能性があれば手続開始決定、⑤ 財産目録や報告書などを裁判所へ提出、⑥ 債権者からの債権届出、⑦再建方法の計画案提出、⑧再生計画に対する監督委員からの意見や債権者の認否、⑨認可決定となります。
各手続は煩雑で専門的な内容となっているため、個人事業者など本人での手続は難しく、弁護士に依頼されることが一般的です。
「資産」が「負債」を上回っている場合(資産超過)の場合に利用できる、廃業手続のひとつです。
負債が資産を上回っている「債務超過」の場合には、次に説明する「特別清算」手続などの利用を検討することになります。
清算手続は、これまで解説してきた「破産」「民事再生」とは異なり、裁判所を通さない事業廃止の手続です。
しかし、廃業にあたっては、各監督官庁などに書類などを提出し、法律にしたがって会社を清算する「清算人」の選任や、その清算人による清算事務(会社の資産売却や債務の弁済など)を行うことが必要です。
特別清算は、通常の「清算手続」とは異なり、資産よりも負債が上回っている場合に利用される廃業手続のひとつです。
株式会社のみが利用できる裁判手続になり、通常の清算手続と同様に株主総会で財産の管理処分権を有する清算人を選任できることから、会社に一定の主導権があります。
しかし、大口の債権者の賛成(全体の債務の2/3以上の同意など)が得られない場合には、特別清算手続は利用できません。
特別清算には① 協定型(書面投票者を含む出席議決権者の過半数、かつ、総議決権額2/3以上の同意を受け可決と裁判所の認可を受けた協定にもとづき弁済)、② 和解型(債権者との個別の和解契約にもとづき弁済)の2種類があります。
債権者との同意などが得ることが難しい場合には、法人破産などの他手続を検討する必要があります。
特別清算は再建型の手続ではないため、手続が終了した際には、法人破産同様に会社の法人格は消滅します。
結論として法人が消滅することに変わりはないため、特別清算手続を本当にとる必要があるのか、法人破産などの手続によるほうが良いのか、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
経営者個人が、会社の保証人となっている場合、会社の廃業とともに個人への保証債務の請求がおこなわれます。
そのため、廃業と合わせて、個人の負債整理を行うことが殆どです。飲食店経営者の方において考えられる主な負債整理の方法は、次の3つがあります。
インターネットから情報を得ることは簡単にできますが、ご自身の事情などに合った最適な解決方法はこれらの手続の専門家である弁護士に相談しながら選択されることをお勧めします。
個人の破産手続は、裁判所を利用した借金免除のための手続です。
自宅、生命保険などの資産を処分し、債権者への配当を行うことで、借金返済を免除されます。
一定の負担があるため、マイナスイメージが付きまといますが、国が認めた生活再建のための手続です。デメリットや負担について正しく知り、うまく利用されるのが良いでしょう。
個人の民事再生手続(個人再生)は、負債の一部を返済することで、残る負債を免除してもらう手続です。
裁判所を利用した手続のひとつです。大きなメリットとして挙げられるのは、個人破産と違い「自宅」を手放さなくて済む、という点です。
自宅を手放したくない、という経営者の方は当手続を検討されてみるのも良いでしょう。
任意整理は、裁判所を利用しない負債整理の方法です。
債権者と将来利息のカット、返済期間を伸ばすなど返済条件等の変更を交渉し、和解をおこないます。あくまで、任意の交渉になるため債権者が和解に応じてくれるかどうかは分かりません。
以上のように、飲食店経営者として考えられる事業撤退のタイミングや、廃業時に問題となりやすい手続やそのポイントについて解説しました。
その飲食店がおかれている環境や個別の事情が異なるため、廃業の判断が難しい場合があります。弁護士は、裁判などで争ったり、交渉をおこなっているイメージがありますが、企業の経営に関しても、事業継続リスクの判断のサポートもおこなっています。
ぜひ、事業継続の上で、廃業も視野にされている場合には一度弁護士に相談されることをお勧めします。
「法人破産」や経営者の方の「負債整理」について最適な解決策をご提案いたします。
まずは、無料で法律相談をお試しください。費用は一切かかりません。
初回のご相談では、① あなたが抱える悩みを、弁護士が一緒になって問題を整理、② その解決のための最適な方法をアドバイスいたします。
もちろん、個別の事情は異なるのは当然です。今ある不安や疑問にも弁護士がしっかりお答えいたします。ぜひお気軽にお問合せください。
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