「旅館・ホテル業」の廃業・破産手続きの注意点~法人破産を扱う弁護士が解説する経営者コラム~
法人破産
2020 . 09.12
法人破産
2020 . 09.12
たちばな総合法律事務所
税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也
大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。
目 次
旅館・ホテル業の経営者の方に知っておいていただきたい廃業・破産手続きの注意点について解説しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響を受けて、2020年4月頃から負債額が100億円を超えるホテル・旅館等事業者の倒産するケースが出てきました。
昨今の海外観光客のインバウンド需要の高まりや、2020年に開催予定であった東京オリンピックにおける宿泊施設の不足が懸念されたことから、宿泊施設建設への投資が積極的に行われていました。
しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う急激な国内外の旅行者の動きが止まったため、ホテル・民宿、民泊などの宿泊施設「延べ宿泊者数」の減少は続いています。
政府主導による2020年7月から開始された「Go Toトラベル事業」による旅行業界に対する後押しもあるものの、長期的には施設利用者の回復が見込めず、資金繰りに窮したことから、事業清算型の倒産手続きをとることが多いようです。
(令和2年5月時点・宿泊旅行統計調査:国土交通省 官公庁「観光統計 宿泊旅行統計調査(令和2年5月・第2次速報、令和2年6月・第1次速報)」https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000420.html )。
2020年現在、新型コロナウイルス感染症により売上減少などの影響を受けたホテル・旅館・民宿事業の経営者の方が利用できる「助成金」「給付金」や「融資」は次のとおりです。なお、これらの制度は日々変更などがあるため、最新情報は給付等をおこなう各手続き窓口の情報を参照してください。
また、下記に挙げている以外の「融資」関連の支援は、取引金融機関、商工中金、日本政策金融公庫などが窓口となる特別貸付などがあります。
※【ご留意ください】
2020年6月時点での情報に基づいて掲載しております。
最新情報は各窓口にお問合せ・ご確認いただけますようお願い致します。
参照情報
「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」
<助成金・給付金等>
☑ 持続化給付金
条 件:売上が前年同月比で50%以上減
概 要:前年総売上(事業収入)-(前年同月比▲50%月の売上×12ヶ月)
法人は200万円以内
個人事業者等は100万円以内を支給
窓 口:中小企業 金融・給付金相談窓口
<融資関連>
☑ 新型コロナ特例リスケジュール
条 件:既往債務の支払いが困難な事業者
概 要:中小企業再生支援協議会が、主要債務者の支援姿勢を確認して、1年間の元金返済猶予を要請。その後計画のサポート等あり。
窓 口:都道府県中小企業再生支援協議会
☑ 小規模企業共済制度の特例緊急経営安定貸付等
条 件:最近1か月の売上高が前年又は前々年の同期と比較して
5%以上減している小規模企業共済の貸付資格を有する契約者
概 要:契約者が納付した掛金の総額の7~9割の範囲内で、2,000万円が貸付上限
償還期間:貸付金額500万円以下の場合4年
貸付金額505万円以上の場合は6年(据え置き期間は1年)
窓 口:中小企業基盤整備機構共済相談室
☑ 契約者貸付制度
条 件:生命保険料が払えない契約者
概 要:契約の解約返戻金の9割を限度に貸付。
特例措置として9月末まで無利息(各保険会社によって対応が異なる)
窓 口:契約先の各保険会社
これらの融資、返済猶予などを受けながら、事業の継続・再開の模索をおこなうことになるかと思います。
しかしながら、政府からの都道府県をまたいだ移動の制限自粛要請や緊急事態宣言の発令の可能性、大規模イベントの自粛、海外渡航の制限などコロナ禍感染拡大の封じ込めの目途が立たない限り、こうした制限・制約は解除されず、従前の環境に戻るには長期の期間が必要となることは明らかです。
ホテル・旅館・民宿事業経営をおこなう事業者において、事業自体の清算をおこなう倒産手続き等をとる場合に大きな負担となるのは次の内容です。
ホテル・旅館・民宿事業における負担。つまり、廃業にあたって問題となる点はなにかを考える際の視点として、取引業者、従業員、宿泊者(予約者)など「関係者」を軸に考えると良いでしょう。
次からの項目について、法人破産を想定した場合に即して解説します。
事業清算型の法人破産手続きを想定し行動する場合、債権者リストを裁判所へ提出するのが一般的です(法人破産手続きの書類や運用は、各裁判所で異なっています)。
取引先において債権者となるのは、リース物件(リース会社)、納品業者(物販等仕入れ、ホテルリネン関連)などが挙げられます。
弁護士に法人破産手続きを委任した場合、債権者に対して同手続きをおこなう内容の通知をおこないます。受任通知または介入通知と呼ばれるこの書面ですが、委任された時点ですぐに発送するかというとそうではありません。
相談時点で、負債の内容、債権者の数、事業の運営状況(拠点の明け渡し作業の有無、什器備品など資産保有の状況の確認)、資金繰りなどを確認、検討したうえで、裁判所に法人破産手続きをおこなう日をいつにするかを決めることになります。
取引先については、納品した商品等の返還を求める取付け騒ぎが生じる可能性もあり、その対応をどうするか等打合せをしたうえで、受任通知を発送することになります。
事案によっては、全債権者に受任通知を発送せず、破産申立後に、相殺禁止の効果を生じさせるために金融機関にのみ破産申立を行った旨を通知する方法を採ることもあります。
なお、宿泊仲介の予約サイトや広告出稿などをおこなっていることもあるかと思います。この場合には、廃業にあたって契約解除の手続きをおこなうことになります。
また、宿泊施設側が預託者(商品を預ける側)から委託を受けて商品を販売している「委託販売」をおこなっている場合、受託者である宿泊施設側の破産手続開始決定により契約は終了します。
そのため、預託者からのちのち商品の返還を求められることがありますので、委託を受けた商品の所在について把握しておく必要があります。
法人破産手続きに限らず、取引先については情報を集約し、経営者などにおいて廃業にあたってどのように処理・対応するのか検討されるのが良いでしょう。
法人破産手続きをとる場合、従業員にあらかじめ解雇通知をおこないます。
なお、資金繰りに窮している事業者において、給与の未払いや遅延が生じている状況が見られます。事業者が倒産した場合における、未払給料などにおいては、独立行政法人労働者健康安全機構による「未払賃金立替制度」の利用により一部立替による支払いを受けることができます。
ただし解雇から破産申立てまでが6か月を経過するとこの制度による建て替え払いを受けることができませんので、スケジュールにはご留意ください。
法人破産手続きのなかで財産を換価し財団を形成した上で債権者等に配当されます。この配当の際に、従業員に対して他の債権者より優先的に弁済を受けることができます。
参照情報
厨房機器など宿泊施設内で利用されているリース物件がある場合、そのリース会社も債権者となります。
廃業の通知をおこなうまでは、その利用を続けることになりますが、受任通知後にはリース物件を返還する必要があります。そのため、このリース物件についても情報を集約し一覧化しておくと、返還などの作業をスムーズに進めることができるので良いでしょう。
ただし、リース物件がパソコン等の場合には、当該パソコン内のデータを消去するか、又は別の手持ちのパソコン等に移動させておく必要があることにご留意ください。
なお、物件返還という点では、割賦販売など分割で購入した車両等においては「所有権留保(支払いを終えるまで、その売主に所有権がとどめられること)」となっている場合が殆どです。こうした場合においても、物件を返還することになりますので、こちらも情報をまとめておきましょう。
予約および宿泊中のお客様に対する対応について、従業員との解雇問題とあわせて考える必要があります。
予約については受付停止をおこない、宿泊中のお客様へはサービス提供中止などによる混乱が生じないように配慮し、廃業を進める必要があります。
宿泊前に料金の支払いを受けている場合において、その宿泊代金等について返還することはできず、裁判所における法人破産手続きのなかで返還を受けていただくことになります。
そのため、宿泊費を求める宿泊予約者が多数に上る場合には、予め自社ホームページへの今後の対応の掲載や、電話相談窓口の設置など検討をおこなうようにします。
なお、宿泊施設側が法人破産手続き前におこなった宿泊費の返還は、裁判所から選任される破産管財人(破産会社の財産管理人)から否認され、お客様から取り戻すことになる可能性があるため、さらなる混乱、迷惑をかけることになります。
そのため、弁護士と今後どのように対応するべきか綿密に打合せをおこなうことが大切です。
法人の破産手続きは、所在地を管轄する地方裁判所に対して手続きをとることになります。
資産を換価し、債権者に対して配当をおこない、法人を消滅させる手続きです。これにより法人としての負債の返済が必要なくなります。
流れとしては大きく、① 裁判所への申立て② 破産決定・破産管財人の選任(法人の財産を管理者が裁判所から選任され、管財人が以降の手続きを進めます)、③ 債権者集会など、④ 債権者への配当、⑤ 終了となります。
法人格(株式会社など)を持たない個人経営の民泊業店の方は「個人破産(自己破産手続き)」による手続きを行なうことになります。
法人における民事再生手続きは、借入れの返済期間の延長や、その借入れを一部減額して返済をおこなうための手続きです。
そのため、資金繰りが厳しく運転資金さえ危うい場合には向いていません。この手続きも、地方裁判所に対して手続きをおこなう必要があり、裁判所へ納める費用(予納金)も300万円以上を要するなど高額であることも、手続きをおこなううえで支障となる可能性があります。
民事再生手続きの流れは、① 裁判所への申立て(予納金をこのとき納付)、② 保全処分命令・監督委員の選任、③ 債権者に対しての説明会開催、④ 再建の可能性があれば手続き開始決定、⑤ 財産目録や報告書などを裁判所へ提出、⑥ 債権者からの債権届出、⑦再建方法の計画案提出、⑧再生計画に対する監督委員からの意見や債権者の認否、⑨認可決定となります。
各手続きは煩雑で専門的な内容となっているため、個人事業者など本人での手続きは難しく、弁護士に依頼されることが一般的です。
「資産」が「負債」を上回っている場合(資産超過)の場合に利用できる、廃業手続きのひとつです。
負債が資産を上回っている「債務超過」の場合には、次に説明する「特別清算」手続きなどの利用を検討することになります。
清算手続きは、これまで解説してきた「破産」「民事再生」とは異なり、裁判所を通さない事業廃止の手続きです。
しかし、廃業にあたっては、各監督官庁などに書類などを提出し、法律にしたがって会社を清算する「清算人」の選任や、その清算人による清算事務(会社の資産売却や債務の弁済など)をおこなうことが必要です。
特別清算は、通常の「清算手続き」とは異なり、資産よりも負債が上回っている場合に利用される廃業手続きのひとつです。
株式会社のみが利用できる裁判手続きになり、通常の清算手続きと同様に株主総会で財産の管理処分権を有する清算人を選任できることから、会社に一定の主導権があります。
しかし、大口の債権者の賛成(全体の債務の2/3以上の同意など)が得られない場合には、特別清算手続きは利用できません。
特別清算には① 協定型(書面投票者を含む出席議決権者の過半数、かつ、総議決権額2/3以上の同意を受け可決と裁判所の認可を受けた協定にもとづき弁済)、② 和解型(債権者との個別の和解契約にもとづき弁済)の2種類があります。
債権者との同意などが得ることが難しい場合には、法人破産などの他手続きを検討する必要があります。
特別清算は再建型の手続きではないため、手続きが終了した際には、法人破産同様に会社の法人格は消滅します。
結論として法人が消滅することに変わりはないため、特別清算手続きを本当にとる必要があるのか、法人破産などの手続きによるほうが良いのか、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
なお、特別清算手続きが取られるケースのひとつとして、収益事業を会社分割や事業譲渡により新会社等に承継させて、不採算事業が残る旧会社(既存会社)については特別清算手続きをとり、法人格を消滅させるという方法もあります(第二会社方式)。
メリットとしては① 従業員への雇用維持、② 既存取引先への返済、③ 債務引継ぎの回避、 ④ 会社継続の道を残すなどが挙げられます。一方でデメリットとしては、① 新会社等において許認可を再度取得する必要があること(費用など)、② 資金調達や資金繰りが問題となりやすい、といった点が挙げられます。
経営者個人が会社の保証人となっている場合、会社の廃業とともに個人への保証債務の請求がおこなわれます。
そのため、廃業と合わせて、個人の負債整理をおこなうことが殆どです。
民泊経営者の方において考えられる主な負債整理の方法は、次の3つがあります。
インターネットから情報を得ることは簡単にできますが、ご自身の事情などに合った最適な解決方法はこれらの手続きの専門家である弁護士に相談しながら選択されることをお勧めします。
個人の破産手続きは、裁判所を利用した借金免除のための手続きです。
自宅、生命保険などの資産を処分し、債権者への配当をおこなうことで、借金返済を免除されます。
一定の負担があるため、マイナスイメージが付きまといますが、国が認めた生活再建のための手続きです。デメリットや負担について正しく知り、うまく利用されるのが良いでしょう。
個人の民事再生手続き(個人再生)は、負債の一部を返済することで、残る負債を免除してもらう手続きです。
裁判所を利用した手続きのひとつです。大きなメリットとして挙げられるのは、個人破産と違い「自宅」を手放さなくて済む、という点です。
ただし、法人が破産を採用し、オーナーが民事再生を採用することは、負債の弁済の点からかなり厳しいという認識を持つべきです。
自宅を手放したくない、という経営者の方は当手続きを検討されてみるのも良いでしょう。
任意整理は、裁判所を利用しない負債整理の方法です。
債権者と将来利息のカット、返済期間を伸ばすなど返済条件等の変更を交渉し、和解をおこないます。あくまで、任意の交渉になるため債権者が和解に応じてくれるかどうかは分かりません。
以上のように、ホテル・旅館・民宿事業経営者として考えられる事業撤退のタイミングや、廃業時に問題となりやすい手続きやそのポイントについて解説しました。ホテル・旅館・民宿事業においては、関係者が多く、廃業予定日から逆算をして、その準備をおこなうことが大切です。
当事務所では、事業撤退に伴う破産申立て手続きなどによる、経営者の方の生活再建を支援しています。お気軽にご相談ください。
「法人破産」や経営者の方の「負債整理」について最適な解決策をご提案いたします。
まずは、無料で法律相談をお試しください。費用は一切かかりません。
初回のご相談では、① あなたが抱える悩みを、弁護士が一緒になって問題を整理、② その解決のための最適な方法をアドバイスいたします。
もちろん、個別の事情は異なるのは当然です。今ある不安や疑問にも弁護士がしっかりお答えいたします。ぜひお気軽にお問合せください。
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