不渡り2回は会社にとって致命的?倒産を回避するための全知識
法人破産
2025 . 10.15
法人破産
2025 . 10.15
目 次
「不渡り」という言葉に、会社の存続を揺るがす危機的な響きを感じる経営者の方は少なくないでしょう。
特に「6ヶ月以内に2回の不渡り」が、事実上の倒産宣告に等しいという話を聞き、自社の資金繰りに不安を覚えて検索されたのではないでしょうか。
本記事は、そのような不安を抱える中小企業の経営者・財務担当者の皆様に向けて、単なる知識の解説に留まらず、具体的な危機回避の方法と、万が一の事態に備えるための実践的な対策を提示することを目的としています。
不渡りが事業運営に及ぼす影響、特に2回目の不渡りがもたらす深刻な結果を正確に理解し、そうした事態を未然に防ぐための知識を身につけ、万全の危機管理体制を築くことは、会社と従業員の未来を守る上で不可欠です。
この記事を最後まで読めば、不渡りに関する正確な知識はもちろん、自社の状況に合わせて今すぐ取り組むべき対策や、専門家へ相談する適切なタイミングが明確になります。
まず、不渡りの基本的な定義と、その原因となる手形・小切手の仕組みについて理解しておくことが大切です。
不渡りとは、企業や個人(振出人)が発行した手形や小切手について、支払期日に呈示されたにもかかわらず、支払銀行が支払いを拒絶することを指します。
手形や小切手は、企業間の信用の元に成り立つ便利な決済手段ですが、現金の支払いとは異なり、期日までに入金を約束するものです。
そのため、振出人の口座残高が不足していたり、書類に不備があったりすると、この約束が果たされず「不渡り」となってしまいます。
一度不渡りが発生すると、その事実は手形交換所を通じて全国の金融機関に共有されます。
これは、企業の信用情報に深刻な記録が残ることを意味し、今後の融資や取引に大きな支障をきたす可能性があります。
資金繰りの悪化が主な原因ですが、一度の不渡りが会社の命運を左右することもあるため、その仕組みと原因を正確に知っておくことが極めて重要です。
手形と小切手は混同されがちですが、その性質は大きく異なります。
将来の特定の期日に、記載された金額を支払うことを約束する有価証券です。
期日までに支払い資金を準備する時間的猶予があります。
発行された時点ですぐに支払われることを前提とした証券です。
受け取った人は、いつでも銀行に持ち込んで現金化できます。
この性質の違いから、小切手の不渡りは、手形の不渡りよりも一般的に深刻な事態と受け止められます。
なぜなら、即時支払いが前提であるにもかかわらず資金が不足している、という明確な支払い能力がないことを表しているためです。
不渡りが起きる最大の理由は、支払期日に当座預金の残高が手形・小切手の金額に満たない「資金不足」です。
これは、資金繰り管理の失敗に起因します。
具体的には、以下のようなケースが考えられます。
具体的には以下のとおりです。
こうした事態を防ぐには、日々のキャッシュフローを正確に把握し、支払サイトを考慮した決済スケジュールを徹底的に管理することが不可欠です。
不渡りと一口に言っても、その原因によって3つの種類に分類され、信用への影響度も大きく異なります。
事務的なミスから、事業の存続を揺るがす重大なものまで様々です。
0号不渡りは、振出人の信用力とは直接関係のない、形式的な不備が原因で発生するものです。
0号不渡りの場合、振出人の支払い能力に問題があるわけではないため、信用情報に大きな傷がつくことはありません。
しかし、何度も繰り返すと、事務管理体制が杜撰な会社であるという印象を与え、取引先からの信頼を損なう可能性があるため注意が必要です。
1号不渡りは、振出人の資金不足や取引がないことを理由に支払いが拒絶されるケースであり、最も深刻な不渡りです。
1号不渡りが発生すると、手形交換所は「不渡届」を作成し、その事実は全国の金融機関に通知されます。
これが、企業の信用を著しく損なう直接的な原因となります。
そして、最初の1号不渡りから6ヶ月以内にもう一度1号不渡りを出すと、後述する「取引停止処分」という極めて重いペナルティが科されます。
ただし、不渡りを回避する最終手段として「異議申立提供金」という制度があります。
これは、手形金額と同額の資金を支払銀行に提供することで、不渡り処分を免れる制度です。
あくまで緊急避難的な措置ですが、このような回避方法があることも知っておくべきでしょう。
2号不渡りは、手形の偽造や盗難、契約不履行など、0号・1号以外の特殊な事情によって発生します。
2号不渡りの場合、振出人は支払いを拒絶する正当な理由があることを証明するために、裁判所に支払停止の仮処分を申し立てるなどの法的手続きが必要になることがあります。
この場合も、1号不渡りと同様に異議申立提供金を積むことで、不渡り処分を回避できる場合があります。
「まだ1回目だから大丈夫」と考えるのは非常に危険です。
たとえ1回目の不渡りであっても、その影響は甚大です。
1回目の不渡り(特に1号不渡り)が発生すると、その情報は「不渡報告」として手形交換所に加盟する全ての金融機関に通知されます。
この結果、企業は以下のような具体的な不利益を被る可能性が非常に高くなります。
ほとんどの銀行は、不渡りを出した企業への新規融資を停止します。
運転資金の確保が急に困難になります。
銀行取引約定書に基づき、既存の借入金の一括返済を求められる可能性があります。
1回目の不渡りは、いわば「イエローカード」です。
この時点で経営者は深刻な危機意識を持ち、資金繰りの抜本的な見直しに直ちに着手しなければ、半年以内に2回目の不渡りを出すリスクが格段に高まります。
6ヶ月以内に2回目の1号不渡りを出すと、会社は「取引停止処分」を受けます。
これは、事実上の倒産宣告ともいえる極めて重い処分です。
多くの会社経営者にとって、この処分は事業継続の道をほぼ完全に閉ざされることを意味します。
現金商売でない限り、事業を維持することは極めて困難になります。
取引停止処分を受けると、具体的に以下の措置が取られます。
手形や小切手の振り出しができなくなります。
全ての金融機関からの新規融資が受けられなくなります。
この処分は2年間継続されます。
「取引停止処分者リスト」に掲載され、手形交換所に加盟する全ての金融機関に通知されます。
万が一、不渡りを回避できず倒産が避けられない場合、会社と経営者はどのような道をたどるのでしょうか。
会社の倒産には、事業を清算する「破産」や、事業の再建を目指す「民事再生」「会社更生」などの法的手続きがあります。
いずれの手続きを選択するにせよ、裁判所の監督下で、弁護士などの専門家と共に資産や負債の整理を進めることになります。
企業が最終的に破産する場合、一般的には以下の流れで手続きが進みます。
弁護士への相談・依頼
受任通知の送付
裁判所への破産手続開始申立て
破産管財人の選任
債権者集会
配当・手続きの終結
多くの経営者が最も懸念するのが、会社倒産後の個人の責任です。
中小企業の場合、経営者が会社の借入金に対して個人として連帯保証をしているケースがほとんどです。
この場合、会社が破産しても経営者個人の保証債務は残り、金融機関は経営者個人に返済を請求してきます。
結果として、経営者自身も自己破産や個人再生といった債務整理手続きを取らざるを得なくなることが少なくありません。
自宅などの個人資産を失う可能性も高く、経営者とその家族の生活に極めて深刻な影響を及ぼします。
また、経営者に悪意や重大な過失があった場合(悪質な粉飾決算や財産隠しなど)、取締役としての任務懈怠責任(会社法第423条)を問われ、損害賠償を請求される可能性もあります。
不渡りリスクを最小限に抑えるためには、緊急時の対応と平時からの備えの両方が重要です。
支払期日が迫り、資金ショートの危険性が高い場合の短期的な対策です。
これらはあくまで一時しのぎであり、根本的な解決にはなりません。
乱用すれば、かえって信用を失う諸刃の剣であることを肝に銘じるべきです。
💡
保有している売掛債権(売掛金)をファクタリング会社に売却し、早期に現金化する方法です。
手数料はかかりますが、迅速な資金調達が可能です。
💡
ノンバンク系のビジネスローンは、銀行融資に比べて審査が早く、緊急時の資金調達手段となり得ます。
ただし金利が高い傾向があるため、利用は慎重に判断する必要があります。
恒常的な財務体質の強化と、不測の事態への備えです。
支払期日を特定の日に集中させることで、資金が必要なタイミングと金額が明確になり、計画的な資金繰りが可能になります。
日々の残高確認と、定期的なキャッシュフロー計画の見直しを習慣化することが、会社経営の基本です。
取引先との支払いサイクルを見直し、入金サイトを短縮できないか交渉することも有効です。
安定したキャッシュフローの構築に繋がります。
メインバンクの他に、複数の金融機関で当座預金口座を開設しておくことは、有効なリスク分散策です。
一つの口座でトラブルが発生しても、他の口座で決済を行うことで事業の停止を回避できる可能性があります。
資金繰りが厳しい場合、国や地方自治体が提供するセーフティネット保証や、日本政策金融公庫の経営環境変化対応資金といった公的な融資・保証制度の利用も検討しましょう。
これらの制度は、一時的な業況悪化に陥った中小企業を支援するためのもので、民間の金融機関よりも有利な条件で資金を調達できる可能性があります。
補助金の活用も視野に入れましょう。
ここまで手形取引のリスクについて解説してきましたが、そもそも紙の約束手形制度そのものが、大きな転換期を迎えていることをご存じでしょうか。
全国銀行協会は、2026年度末までに全国の手形交換所を廃止する方針を打ち出しています。
これは、紙の手形・小切手の利用を全面的に終了させ、インターネットを通じて利用する「電子記録債権(でんさい)」へ完全に移行することを目指す動きです。
経営者として、この変化に対応できないことは新たな経営リスクとなります。
でんさいには、紙の手形に比べて以下のようなメリットがあります。
✓ 紛失・盗難のリスクがない
電子データで管理されるため、物理的なリスクがありません。
✓ 事務手続きの効率化
手形の振り出し、郵送、保管にかかる手間やコストが削減されます。
✓ 印紙税が不要
手形発行の都度必要だった印紙税がかかりません。
✓ 分割・譲渡が容易
必要な金額だけを分割して譲渡(割引)することができ、資金調達の柔軟性が高まります。
✓ 支払いが自動化
期日になると自動で口座間送金が行われるため、支払い漏れのリスクが低減します。
万が一、不渡りを出してしまったとしても、再起の道が完全に閉ざされるわけではありません。重要なのは、その後の迅速かつ誠実な対応です。
一度失った信用を取り戻す道は険しいですが、不可能ではありません。
なぜ不渡りが起きたのかを客観的に分析し、具体的な再発防止策を策定します。
隠し立てせず、現状と今後の計画を正直に説明し、返済計画を提出します。
策定した再建計画や返済計画を地道に実行し、履行実績を積み重ねることが、信頼回復の唯一の道です。
従来の金融機関からの借入が困難になるため、新たな資金調達方法を模索する必要があります。
事業譲渡・M&A
採算部門を他社に譲渡して資金を得たり、会社全体を他社に売却したりすることも選択肢の一つです。
同時に、事業計画そのものの抜本的な見直しの検討が求められることがあります。
このような困難な局面では、経営者一人の力で乗り越えることは極めて困難です。
事業再生に精通した弁護士や税理士など、外部の専門家の知見を借りることが、再起の可能性を大きく左右します。
本記事で解説してきた通り、6ヶ月以内に2回の不渡りを出すと、取引停止処分という極めて深刻な事態を招き、会社の存続が危ぶまれます。
最後に、重要なポイントを改めて確認しましょう。
最大のリスク
6ヶ月以内に2回の1号不渡りで「取引停止処分(2年間)」となり、事実上倒産状態に陥る。
経営者個人への影響
連帯保証をしている場合、会社の倒産は個人の破産に直結する危険性が高い。
回避策
緊急時にはファクタリング等を、平時には資金管理の徹底や公的制度の活用を検討する。
不渡りのリスクは、日頃からの資金管理と正しい知識で、その多くを未然に防ぐことが可能です。
そして何よりも重要なのは、資金繰りに少しでも不安を感じたら、手遅れになる前に専門家へ相談するという決断です。
たちばな総合法律事務所では、法人の債務整理に関する法律相談を初回無料でおこなっております。
ご事情を丁寧にお伺いし、具体的な解決策についてアドバイスしています。
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税理士法人羽賀・たちばな 代表税理士
弁護士・税理士 山田 純也
大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
東京国税局(国税専門官)で銀行/証券会社などの税務調査に従事。弁護士資格取得後、大阪国税不服審判所(国税審判官 平成25年~同29年)として国際課税、信託に係る案件、査察関連案件等に従事し、企業内弁護士を経て現職。破産管財人業務経験があり、法人破産、代表者個人の借金問題への対応実績多数。
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